裁判員制度全国フォーラムを主催した新聞社からの回答
2007年3月9日9:00AM|カテゴリー:書庫|admin
最高裁が年間3億数千万円の広報予算を使い、全国47の地方紙に裁判員制度を紹介する編集記事を掲載させていた問題で、『週刊金曜日』は各新聞社の編集局長に文書で取材を申し込んだ。その回答を基に3月9日号(645号)に記事を掲載した。紙幅の都合上、掲載できなかった各社の回答全文を掲載する。最後になったが、回答を寄せいていただいた下記15社の担当者に感謝と敬意を表したい。
【質問内容】
1)編集記事を掲載するかどうかの判断や、編集記事の内容が広告主の意向に影響されることの是非についてどのようにお考えですか。
2)貴社では、編集の自立性を担保するためにどのような仕組みを構築されていますか。
3)一般論として、新聞社が広告をもらうことと引き替えに、「広告特集」などと明示しない編集記事を掲載することの是非をどう考えますか。
4)最高裁や電通などの内部資料によると、御社などが主催した「裁判員制度全国フォーラム」では、最高裁からの広告出稿と引き替えに一般記事、特集記事を組むことが約束され、実際に御社でも紙面化されましたが、編集権の独立との関係において、このことをどう考えますか。
5)「全国地方新聞社連合会」を経由した政府広報の取り扱い方について今後、再検討されるお考えはありますか。
【回答した新聞社】
北海道新聞社
河北新報社
東京新聞
千葉日報社
山梨日日新聞社
新潟日報社
産経新聞大阪本社
神戸新聞社
新日本海新聞社
愛媛新聞社
高知新聞社
西日本新聞社
熊本日日新聞社
宮崎日日新聞社
南日本新聞社
【質問方法】
『週刊金曜日』は、全国地方新聞社連合会に加盟している47社の編集局長に2月13日付速達で質問書を発送、3日後の16日午後4時までにファクスでの回答を求めた。
「回答までの期日が短すぎる」という指摘があったため、回答がなかった新聞社だけに2月21日にファクスで質問書を再送、同27日までの回答を依頼した。
回答があったのは上記の15社。最初に送った質問には、フォーラム会場を予約した日にちを聞いたが、最高裁が”さかのぼり契約”(『週刊金曜日』2月23日号参照)を認めたため、掲載は省略する。
●北海道新聞社
1 あってはならないことと考えます。
2 ひとことでは説明できません。会社の組織編成、日々の紙面のつくり方などあらゆる場面、局面で編集の自立性を確保するための努力を払っています。
3 編集の自立性確保を前提に紙面を製作すべきだと考えます。
4 広告出稿と引き換えに記事を掲載したとは認識していません。編集権の独立との関係において問題はないと考えます。
5 政府広報の取り扱いについては社内でつねに検討を行っています。
【回答者】嶋田健・編集局次長
●河北新報社
1 編集、営業は独立した本部制をとり、編集については編集本部長に全権限があります。
2 上述と同じです。
3 編集記事として取材したものは当然、「広告特集」などの明示はいたしません。
4 国の制度としての「裁判員制度」であり、記事化することは一定の意味があると考えます。
5 個別に判断していきたいと思います。
【回答者】西川善久・編集局長
●東京新聞
1-3 編集権、編集の判断は独立しています。
4 内部資料については関知しません。裁判員制度は国民に大きな影響を及ぼす司法制度の改革であり、特集記事にかぎらずあらゆる機会をとらえて報道することは報道機関の責務であると考えます。
5 編集局は関知しません。
(中日新聞へも同じ質問書が届いていますが、回答は同じです)
【回答者】深田実・編集局次長
(編集部注:『東京新聞』と『中日新聞』は、中日新聞社が発行している)
●千葉日報社
1 もちろん、編集記事が広告主の意向により左右されるような事態はあってはならないし、本紙においては編集権を侵害されるような事態は起きていないと考えています。
2 日々の「編集会議」が記事の選択を含めた紙面づくりの決定機関として独立している。
3 広告は広告として明記すべきと考える。(この件については今回の裁判員フォーラムをめぐる検証委員会のなかで検討項目の一つとなっている)
4、5については先ほども記した通り、検証委員会で議論を重ねている最中でありますので、回答は保留させていただきます。
【回答者】山口智・編集局長
●山梨日日新聞社
1 影響されることはありません。
2 他の干渉を排除し、独立することを基本にし編集は成り立っています。
3 編集局が扱う紙面は、編集局の責任で編集しています。
4 本社主催事業を編集局の責任で採録しています。
5 編集局としては関知していないことです。
【回答者】今村睦・編集局長
●新潟日報社
1 編集記事が広告主の意向で影響されるようなことがあってはならないし、影響されることはない。
2 編集の自立性は新聞社にとって自明のことであり、日常的にチェックしている。
3 編集特集とするか、広告特集とするかは常に編集局で判断している。判断のベースとなるのは、県民・読者の立場からの視点である。
4 裁判員制度については、内閣府のアンケート調査で国民の約7割が制度を知っていると答えており、同時に約7割が参加に消極的であるなど関心は高い。制度の課題・問題点をフォーラムで明らかにすることは報道上意義あることと捉え、紙面化した。
5 これまで同様、テーマを検討しケース・バイ・ケースで判断する。
【回答者】木村哲郎・編集局次長
●産経新聞大阪本社
1、2 「編集記事」や「編集の自立性」の意味が明確ではありませんが、広告主を含む外部からの「報道・論評の独立」についてのお尋ねと解釈してお答えします。産経新聞社は記者指針で「国益を重んじ、公正でバランスのとれた報道をめざすが、世におもねらない主張を展開していくためには外国を含め、あらゆる勢力からの干渉を排し、独立した存在であるとの立場を堅持する」と規定しています。記者が執筆する報道・論評については編集局長、論説委員長が上記記者指針に基づいて紙面編集する責任と権限を付与されていることが社内的に確認されています。これが「報道・論評の独立」の最大の担保です。
3、4 ご指摘の「内部資料」について承知しておりませんが、産経新聞大阪本社が主催者に加わったフォーラム、シンポジウムなどについては、その意義や内容によっては一般記事や特集で詳報を掲載することがあります。「編集権の独立」とは対立しません。
5 編集局では検討しておりません。
【回答者】名雪雅夫・編集局長
●神戸新聞社
編集記事の内容が広告主の意向に影響されるようなことがあってはならないことは、私どもの自明の理です。神戸新聞においては現にないと認識しています。編集は、長年にわたってあくまで編集局の判断に基づいて行っています。
また編集特集もあくまで編集の主体的な判断に基づく特集紙面であり、広告紙面を編集特集として掲載することはありません。
全国地方新聞社連合会の取り組みの報道については、今後とも、編集局として紙面化に値するものかどうかを個々に判断してまいります。
以上です。ご質問をいただいてから日もなく、雑ぱくな回答になったことをお許しください。
【回答者】高士薫・編集局長
●新日本海新聞社
1 広告主の新製品や新しい取り組みが記事になることは十分考えられる。しかし、それはニュースの客観的価値に基づくもので、広告主の意向に左右されるものではない。
2 広告側と編集側がそれぞれの立場を分離して業務を進めており、それ以上の仕組みは不要。
3 ケースバイケース。特集の企画の意義、内容、読者ニーズ等を検討した上で、掲載の是非を考えたい。
4 フォーラムで討論された内容を一般記事の中で盛り込むことが難しく、その概要を特集として掲載したいという最高裁の意向は理解できる。しかし、フォーラムの中でも、制度の問題点や課題、要望等について言及しており、編集権の独立は十分確保して掲載している。
5 特になし。
【回答者】田中仁成・編集制作局長
●愛媛新聞社
さて過日、編集局等あてとして送付いただいたご質問について、一般論を除き直接ご質問の表題に関する範囲においてのみ小職の及ぶ範囲で包括的にお答えさせていただきます。
編集記事の掲載内容については広告主の意向に影響されてはならないと考えています。ご指摘にあるように「編集の自立性」の堅持は重要であり、この大原則に沿って事案対応いたしております。「編集権の独立」を当然の前提としつつ、その上に立ってご質問の事柄にも対応した次第です。今後ともこうした方針のもと厳正に対処していく所存であります。
以上なにとぞご理解くださいますようお願い申し上げます。
【回答者】谷茂男・報道局長
●高知新聞社
1 編集記事の掲載の判断、記事の内容が広告主の意向に左右されることは、あってはならない。
質問の趣旨が、質問3でいうところの、最高裁からの広告をもらうこと引き替えに一般記事、特集記事を組むことを指すなら、記事の中身次第だと考える。新聞社が共催でシンポジウムを開く以上、開催の予告記事や特集記事を掲載することをもって、直ちに編集の独立性が侵されるとは考えない。言うまでもなく、記事の中身が最高裁の意向、期待に沿った「ちょうちん記事」であれば論外だ。弊社は特集記事を組むに当たって、最高裁(地裁を介しても)の意向や要望を聞いたことはないし、聞く必要もないと考える。
2 システム化、マニュアル化された「仕組み」はない。編集の自立性がどのような形で侵されることを想定した質問か分からないが、対社外であっても対社内であっても、「編集権は独立して編集本部にある」との姿勢を貫いている。
3 一般論であろうがなかろうが、好ましくない。広告に対応したものであれば、読者から見て、PRだと分かるように、ノンブルなどで明示すべきだと考える。
4 質問1で答えたように、問題は記事の中身だと考える。ただ、3で答えたように、特集面に「全面広告」のノンブルなり、「広告局制作」など、読者に分かる表示をすべきだし、社内的に指摘してきた。地方紙連合として、それができない条件になった経緯は承知していないが、ここが問題だと考える。
5 権力を監視する立場の新聞として、いやしくも読者の誤解を招かないように、説明責任を果たせる形に改めるべきだと考える。その観点から、これまでも検討してきたが、今回の問題を機に、毅然とした姿勢を打ち出す時期だと考える。
【回答者】宮田速雄・編集局長
●西日本新聞社
1 影響されてはならないと考えます。
2 自立性は、仕組み以前の編集の前提と考えます。
3 広告と引き替えに編集記事を掲載することはありません。
4 編集の独自の判断で紙面化しました。
5 再検討する考えはありません。
【回答者】田中一彦・編集局総務
●熊本日日新聞社
熊本日日新聞社は、編集権の独立を最優先すべきものと考えて新聞制作に当たっています。そのために、編集局内での徹底した論議を核に、独善に陥らないようモニター制度や紙面批評、第三者委員会など外部からの風を受けるような制度も設けています。広告の関連するものについてはその性格も含め検討、特集掲載に当たっては編集紙面とは異なるものであることを示してきました。関連行事が社会的に公共性があると判断した場合は、ニュースとしての紹介をしています。「全国地方新聞社連合会」がかかわるものについてもこれまで同様、その都度取り扱いを判断していくつもりです。
【回答者】高峰武・編集局長
●宮崎日日新聞社
1 掲載記事が広告主の意向に影響されてはならないことは、編集権の自立性、独立性を保つ上で当然の前提だと考える。
2 編集の自立性と言論の公共性を守ることは報道機関としての重要な使命であり、新聞倫理綱領や本紙が独自に定めた記者行動規範などに基づく原則だと考えている。またそれを阻害、侵害する恐れのあるテーマ、ケースについては毎日開いている編集会議で論議しているほか、編集局幹部間でも随時協議。言うまでもないが、編集・広告それぞれの立場で出稿に責任と自主性を保つことは常に確認している。
3 新聞における記事と広告が、その使命や役割において異なるのは当然のことである。ただ公共的・社会的テーマを広告と連動して世論に訴え、問題提起したり啓発的な目的で行う個別的事案がないわけではない。ケース・バイ・ケースと考える。
4 司法改革に伴う裁判員制度の創設は国民的課題だと考える。県民にも改革の意義が周知されていないことや制度への不安が少なくない中、紙面を通じて同制度の意義、課題などについて特集記事を組んだ。最高裁がスポンサーであるとはいえ、このテーマの重要性の認識について本紙のスタンスに齟齬はなく、編集権の独立性を侵害するとは考えない。
5 個別のケースごとに判断する。
【回答者】三好正二・編集局長
●南日本新聞社
1 問題点の指摘や国民の間に残る不安・疑問の提示などが編集記事の対象となります。広告主の意向に影響されることはありません。
2 まず編集会議(合議制)で編集紙面として取り組む価値・必要があるかを論議します。その結果、必要性を認めた場合、取材から編集まで編集局が一切の責任をもって進めます。
3 弊紙では広告の企画特集とし、「企画制作は南日本新聞社広告局」と紙面の中に文責の所在を明示しています。
4 裁判員制度の導入は司法改革の一環として正式に決まりました。しかし、国民の間にはさまざまな疑問、不安が残っています。国、司法当局による周知広告とは別に、問題点の指摘などは編集の責務と考えます。編集権の独立に基づいて行っています。
5 編集局がケースバイケースで判断しています。
【回答者】浜畑剛・編集局長