天皇制

 私たちにとって天皇はどのような存在なのか。天皇制とはいったい何か。今年は、このような問いかけを繰り返すことになりそうだ。
 2019年4月30日、日本国憲法下ではじめてとなる天皇退位がある。大日本帝国憲法下でも例はなく、天皇の退位は江戸後期の119代光格天皇(1771~1840年)以来、約200年ぶりだ。
 のちの明治政府側が、江戸幕府を倒すために天皇を担ぎ出して以来、天皇制は日本社会に多大な影響を及ぼし続けてきた。
 第2次世界大戦では、天皇の名の下に人々が動員され、日本では軍人市民あわせて約300万人が犠牲になった。中国や東南アジア、太平洋の島々など戦場となった地域では、ケタ違いに多くの他国の人命が失われた。名誉と尊厳を傷つけられた女性たちもいた。
 昭和天皇の死去による約30年前の代替わりでは、大手マスコミは追悼報道一色に染まった。それは、「多事争論」を尊重すべきメディアとして異様な光景だった。インターネットの普及によって、情報の流通量は格段に増えたが、「菊のタブー」はなくなってはいない。
 日本国憲法の下で天皇制が再び暴走する危険性はなくなったのか。天皇制と民主主義は並び立つのか、それとも並び立たないのか。
 健全な議論を闘わせるために、本誌はさまざまな切り口から天皇、天皇制について判断材料を提供する。

  • 統治権力への従順と女性の「生きづらさ」
    雨宮処凛×森達也

    私たちは天皇や天皇制に対してどのような思いをもっているのか。かつて天皇をテーマにドキュメンタリーを撮ろうとした森達也さんと、右翼団体に所属していたことがある雨宮処凛さんがざっくばらんに語り合う。

  • 明治時代につくられた天皇制イデオロギーの克服を
    宇都宮健児

    天皇制について考えることは日本社会における自由や人権、民主主義について考えることだ。法律家の視点から天皇制を考える。

  • 「対テロ戦争」歓迎、自衛隊派兵を権威付け
    「平和天皇」の内実
    中嶋啓明

    天皇制がはらむ矛盾や危険性はどこにあるのか。天皇制と民主主義は矛盾すると考える筆者が具体的に指摘する。

  • 表現が萎縮しない時代の証言
    太田 昌国
  • 女性を呪縛する家父長制
    鈴木裕子

    天皇制を考える書籍を識者2人が紹介する。

  • 民衆が王朝に期待できるものは何もなかった
    なぜ韓国は共和制になったのか?
    成川彩

    王朝ドラマが好きな韓国人だが、1945年8月15日の朝鮮解放後も王朝復活は望まなかった。その背景を探る。

  • 天皇報道と記者たち
    「メディアの自殺状況」から抜け出すために
    山口正紀

    30年前、裕仁天皇の死去により日本国憲法下で最初の代替わりがあった。当時の雑誌記事(『法学セミナー』増刊)を再掲。今回の譲位報道記事に必要な視点を探る。

  • 敬語・敬称を抑制し、客観的な皇室報道に
    「開かれた皇室」へそろそろ決断を
    宮下正昭

    天皇の代替わりを控え、天皇や皇族に関する報道が増えている。皇室報道には敬語や敬称が付いて回る。それが記者たちの客観報道への姿勢を削ぎ、社会には皇室へのタブーを与える。「開かれた皇室」へ。記者たちはそろそろ決断が必要だ。

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