編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

谷川俊太郎さんと小室等さん

 谷川俊太郎さんと小室等さんのつきあいは1968年ごろからだというから、かれこれ60年近い。今回話を聞くにあたって小室さんにお持ちいただいた写真は膨大で、「これはたぶん金沢での会食」「こっちは長野のそば屋」、そして「俊太郎さんが歌ってる」ライブや打ち上げと、公私ともに親しかったことがわかるものばかり。ほかにも「まだワープロじゃないころだったのかな。歌を作るときに、こういう詩ができたよって」受け取った手書きの原稿……。

 写真の谷川さんは「いつもながらのTシャツ」姿で、「かっこいい。似合うんだよね」。2人で乗った熱気球の不時着や好きだった車……、話は尽きない。小室さんを通して知る谷川さんはユニークで不思議、話を聞いてみたかった。

 さて、今号が年内最終号となる。敗戦から80年となる2025年はどんな年になるのか。友人から今年も届いた「チェルノブイリ39周年救援カレンダー」を見ながら、自分にできることは何か考えている。どうぞよいお年を。(吉田亮子)

川崎市ふれあい館で

 モモ(ネパールのミートパイ)、エンパナダ(ボリビアの揚げ餃子)、水餃子(中国)、ガパオライス(タイ)……。日本人と在日外国人が相互にふれあいをすすめることを目的とした川崎市ふれあい館。ふれあいは互いの歴史・文化を理解するところから、というわけで先月祭りがあった。館内は先にあげた多文化料理や、子どもたちが自分で制作した作品を販売するコーナーなどがあり、人でいっぱい。

 名物だという「多文化衣装コーナー」では、フィリピン人家族がチマチョゴリを着て撮影中だった。小さい女の子がかわいい。私も着させていただき写真を撮ったが、誌面で披露できないのが残念(笑)。

 少し辛みがあっておいしかったのがフィリピンの人気料理の一つ、パンシット・ビーフンだ。売り子の少年に料理の感想を伝えに行くと、困ったような顔。友人が通訳すると笑顔を見せた。今号の特集では金井真紀さんが「難民・移民フェス」を紹介。ぜったいたのしいし、おいしいだろうな〜。次回は参加したい。(吉田亮子)

1500号

 あがってきたゲラを読んでいると、私とは違う意見だなぁと思うことを主張する筆者にも出会う。そしてその後、「言葉の広場」や「読者会から」でそういった主張への反論が載ることもあり、筆者や編集部員が応答する……。最近は減ったようにも思うが、「論争」することが本誌の特徴の一つではないかと思う。

 そうして迎えることができた1500号。あくまで通過点に過ぎないが、1994年に入社した私にとってこの約31年の間には数々のできごとがあった。簡単に振り返ることはできないが、社会は変化し、「明るい未来」なんてますます見えてこない。それでも、今できることがあると信じて誌面を作っていきたい。

 今号では「ドキュメンタリー映画で精神疾患に向き合う」も企画した。後半の『わたしを演じる私たち』の記事に出てくるOUTBACKアクターズスクール副校長の佐藤光展さんは医療ジャーナリストとして、特集「施設コンフリクト」の記事も執筆していただいた。併せてお読みいただければ。(吉田亮子)

谷川俊太郎さん

「なまくらのれん」で小室等さんが紹介してくれたとおり、滋賀県近江八幡市のボーダレス・アートミュージアムNO—MAは町屋や蔵が立ち並ぶ一角にあった。11月13日に亡くなった詩人、谷川俊太郎さん(享年92)の作品「詩人の墓」が中庭で出迎えてくれる。

 館内に入ると、今度は「死んでから」が目に飛び込んできた。詩には「前には聞こえなかった音が聞こえる」の一節があるが、谷川さんはいま何の音を聞いているのだろうか。2階では「死んだ男の残したものは」が鏡に書かれ、見るものの姿と詩が重なる仕組みになっていておもしろい。

 小室さんがこの歌をうたうのを何度も聞いたことがある。谷川さんとの関係は深く、小室さんにとっての魅力を存分に語ってもらう機会をつくらなければ、と思う。

 階段の壁には「かっぱかっぱらった」とリズムがたのしい「かっぱ」、傍らには古賀翔一さんの「立山蛙」などのフィギュア。妙にマッチした不思議な空間となっていた。企画展は12月15日(日)まで。(吉田亮子)

兵庫県知事選挙

 11月17日に行なわれた兵庫県知事選挙。パワハラ疑惑などで失職した齋藤元彦前知事が予想に反し、再選した。勝因はSNSを駆使した大量の情報拡散だったという。

 既存メディアは公平公正を保つために特定の候補に偏った報道はできないとされるがSNSにはそれが及ばず、公職選挙法で想定されていない事態が起きたということだろう。事実であってもなくてもネットにあがった情報は一人歩きし、拡散されていく。

 驚いたことに齋藤前知事に投票した有権者の多くが、そういったSNSの情報を信頼して見ていたようだ。今後も起こり得る同様の事態に、法律や既存のメディアはどう対応していくべきなのか。本誌でも考えていきたいと思う。

 今号の長生炭鉱特集は8月2日号に続き、「遺骨」という視点で崔善愛さんに責任編集していただいた。TBSでは石炭産業で躍進した当時の長崎県・端島(軍艦島)が舞台のドラマ「海に眠るダイヤモンド」が放送中。炭鉱シーンは実際の鉱山で撮影されたとか。(吉田亮子)

竹ちゃん

「毎日おしゃべりして、ときどき勉強。困ったことは、竹ちゃん(センター長の竹川真理子さん)に相談する」

 そんな「居場所」だよと、NPO法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾(横浜市南区)を紹介した中学生。11月9日、信愛塾45周年記念集会が同市内であった。

「ある日の信愛塾」を紹介する動画では、けんかする子どもに「本を投げない!」と大人が日本語で注意するが通じていない。中国語や韓国語、タガログ語、英語、日本語が飛び交い、保護者も訪れる。

外国に連なる子どもたちは増え続け、学校や行政からも「なくてはならない存在」と相談が絶えない一方で、財政はきびしい。そこで10月、クラウドファンディングを開始した。それでも竹ちゃんは「お金ではなく、(大切なのは)人」と、まわりのスタッフや成長した子どもたちに日々助けられていると話す。

 今号から編集長を担うことになった。本誌も財政はきびしいが、「人」を大切にした誌面作りをしていきたい。(吉田亮子)

編集長交代

「原作者の弘兼(憲史)氏と講談社は『当事者の確認が取れていない伝聞でした』として、謝罪しましたが、内容は謝罪とは言い難い。心から謝罪する気があるなら、雑誌を回収し、辺野古テントに来て、みんなの前で謝罪すべきです」。沖縄・名護市に住み、日米の軍事基地がなくなることを求めて反戦活動を続ける中山吉人さん(67歳)からこんなコメントが届いた。漫画「社外取締役 島耕作」で、普天間基地の辺野古移設に抗議する人たちについて、キャラクターが「日当で雇われた」と語るシーンが登場した件だ。平和を祈って座り込みを続ける人々への侮辱は断じて許せない。通り一遍の謝罪で終わらせてはならない。

 11月1日で3年間の編集長任期が終わりました。編集長として携わるのはこの号が最後です。楽しいことも、落ち込むことも、泣きたいこともたくさんあった3年間でしたが、終わってみればあっという間。次号からは吉田亮子編集長にバトンタッチします。引き続きご愛読をよろしくお願いします。(文聖姫)

総選挙のとばっちり

 突然の衆議院解散・総選挙が、まさか自分に影響してくるとは思わなかった。実は10月20日に東京・板橋区でジャーナリストの青木理さんと対談をすることになっていた。「高島平ドキュメンタリー映画を見る会」の山名泉さんらが、半年以上前から準備していたイベントだ。50回目という節目でもあることや青木さんを招くことで、会のみなさんも力を入れて準備を重ねていた。ところが、9月下旬、山名さんたちは区から突然「場所を貸せなくなった」と告げられた。予約していた場所は区の公民館だが、そこを期日前投票の会場にするからというのが理由。山名さんらは代替会場を探したが、300人規模の場所が簡単に見つかるわけではない。仕方なく延期を決めた。ひどい話だ。そもそもこんなに急いで選挙をやらねばならない理由がどこにあったのか。

 在日コリアンの私には選挙権がない。だからこそ、日本のみなさんに託したい。2日後の選挙結果は、日本に定住する外国人のくらしにも関わってくるのだから。(文聖姫)

ピロリ菌撃退

 6月28日号の本欄で、胃カメラ検査でヘリコバクター・ピロリ菌が見つかり、除菌したことを書いた。繰り返しになるが、除菌方法は簡単。処方された薬を1週間飲み続ければいい。ただ、その間はお酒が飲めない。“呑兵衛”の私にとっては、これが一番大変だった。多くの人が1回の治療で除菌できるようだが、まれに失敗する人もいるらしい。私の周辺でも3回目でやっと成功した人がいた。

 10月4日、検査に行った。見事除菌に成功! これで胃がんになるリスクも低下する。だが、もらった紙には「ゼロになるというわけではありません」と書かれていた。医者には、今後年に1回程度の胃カメラ検査を受けるように言われた。胃粘膜の炎症が除菌によって軽減することにより、除菌前には見えなかった病変が発見されることもあるとのこと。胃カメラは苦しいが、ほんの数分で終わる。それで病気を事前に防げるとしたら、少しの苦しみは耐えられる。それにしても、「禁酒1週間」を再びやらずに済んでよかった(笑)。(文聖姫)

どうして解散・総選挙?

 10月9日、衆議院が解散した。総選挙は27日だ。石破茂首相は、当初の方針を覆し、早期の解散・総選挙に踏み切った。野党とじっくり国会論戦を繰り広げることを避けた形だ。自民党の顔が変わり支持率が上がっている間に総選挙に打って出て、自公政権継続を目論んでいるのだろうか。だが、『毎日新聞』と社会調査研究センターが3日に実施した世論調査で、内閣支持率は46%と、半数を下回った。発足当初はある程度高い支持率が出るはずだ。やはり、総選挙をめぐる石破首相の「ブレぶり」や統一教会問題にきちんと対応していないことへの世論の批判とみてよいのではないか。それを意識してか、石破首相は6日、「相当程度の非公認が生じる」と述べた。

 石破内閣に女性が2人しか入閣しなかったことも問題だ。第2次岸田文雄第2次改造内閣では、5人が女性だった。世界の流れからみても、増えこそすれ、減るとは……。永田町の「マッチョ政治」を破るのは至難の業なのだろうか?(文聖姫)