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いまだにおかしい、マスコミの武富士への対応

 武富士の広報担当者に、こんな話しをしたことがある。「御社に不祥事があれば記事にしますが、武井保雄さんの個人的な醜聞は書きません」。『サンデー毎日』の編集長をしていたころで、まだ「盗聴事件」は発覚していない。だが武井会長(当時)にまつわる私的なスキャンダルは、たびたび雑誌で報じられていた。

 権力を持つ立場にある人は多少、プライバシーが侵害されるのはやむをえない。一挙手一投足が周囲に大きな影響を与える以上、いつも「見られている」状況は一定、受容するしかない。そこは一般人とは異なる。当然、メディアも、時にその言動を報じる。好ましい表現ではないが、ある程度“有名税”は避けられないのが現実だ。

 しかし過去の経歴や家族のこととなると、話しは別だ。仮に、ある政治家や大企業のトップに逮捕歴があったとして、それを報じることは名誉を侵害する。また、「○○政治家の息子が逮捕された」といった類の記事も、原則として実名を書くべきではない。本人と家族は別人格であり、そこまで踏み込む権利はだれにもない。

 だから本誌は、一度たりとも武井氏の私的醜聞を書いたことはない。あくまでも、武富士の問題点、トップとしての武井氏の責任を追及してきた。だが武富士は本誌を名誉毀損で訴えてきた。本末転倒。名誉を毀損されたのは本誌であり、筆者の三宅勝久氏である。

 今週号でも特集したが、武富士商法には数々の問題点がある。しかも、それを隠蔽し、批判的記事が出ると著者を盗聴するという、それこそ人権侵害の犯罪まで行なっていた。一方で、新聞社やテレビ局には多額の広告を出すことで、批判封じを狙っていた。特集では、各新聞社に対し行なった「武富士の広告と紙面についてのアンケート」結果も掲載したが、実にそっけない回答ばかり。「武富士とのことは触れないでほしい」という雰囲気がありありだ。

 メディアは、「報じるべきではない」ことを報じてはいけない。だが「報じるべき」ことは報じなくてはならない。武富士問題に関していえば、いまだにマスコミの対応はおかしい。なぜ、武富士の広告は解禁しながら、言論弾圧ともいえる「不当提訴」について、きちんと報道しないのか。

 こうしたことを、武富士の代理人、弘中惇一郎氏はどう考えているのだろう。報道被害者救済など、人権派弁護士としての活動に尊敬の念を抱いていたのだが。 (北村肇)