権力は暴走する。そして潰える。これは必然の流れだ。
2005年10月7日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
教わったとき、なるほどなあと感心したことわざがいくつかある。これもその一つだ。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」。こまっしゃくれたガキは、何かというと高飛車に生徒の頭をこづく教師が不快だった。先生は偉いんだから、もっと頭を垂れればいいのにとは、さすがに小学生の身では言えなかったが。
首相就任当初、「米百俵」で話題をとった小泉氏。圧勝劇後は、丸々太った稲穂となり、反っくり返っているようだ。慎みとか謙虚とかいう言葉は無縁らしい。後継者になりたければ自分の方針に従えとは、これを独裁者と言わずなんと言おう。
だが問題は小泉氏にとどまらない。強権的な雰囲気は自民党全体を覆っている。この際、懸案事項はみんな押し通してしまえとばかりに、特別国会が暴走を始めた。今週号で特集したように、憲法改悪に向けた国民投票法案を審議する憲法調査特別委員会の設置、共謀罪成立の動き――。
口に出すのもばからしいが、総選挙で同党が「憲法改正」や「共謀罪の重要性」を訴えた形跡はない。まあ所詮、政治家などそんなものと醒めてはいるものの、悪質性はこれまで以上だ。
国会の暴走は過去にもたびたびあった。ブレーキをかけたのは野党、マスコミ、ときに与党内の反主流派も加わった。結果として市民の目が永田町に向き、次の国政選挙では与党惨敗ということも起きた。
だが、民主党は自民党と変わらず「改憲派」のようだ。新代表などはわざわざ就任演説で「9条改正」に触れている。肝心の最大野党がこれでは、国民投票法案についても、十分な論議のないまま成立しそうな勢いである。
一方、マスコミは、憲法改悪や共謀罪の重要性に関して、ほとんど報道していない。ウオッチドッグの使命など、はるか昔に置き忘れてきたのだろうか。また自民党内の反主流派も、解散前とは様変わりにおとなしいもの。
権力が暴走するのは必然。しかし熟れきった稲は刈り取られ、食され、忘れ去られる。これもまた避けられない流れだ。「一昨日」が「昨日」でないように、「明日」は「今日」ではない。(北村肇)