小泉首相やトヨタといった勝ち組の目線は、どこか歪んでいる
2006年1月13日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
目線が違う。一国を預かる宰相として目線が間違っているのだ。新年記者会見で小泉首相は、「大方の人が」景気回復を実感しているはずと語った。違う。新バブルに踊り浮かれているのは「一部」の人にすぎない。東京株式市場の大発会では5年4ヶ月ぶりの高値1万6361円を記録、大企業も軒並み収益を増大している。だが一方、身の回りでは「景気のいい話し」を聞いたことがない。「大方の人」は生活や将来に不安を抱いているのが現実なのだ。勝ち組に目線を合わせている小泉氏にはそれが見えない。あるいは、見て見ぬふりをしているのか。
同じ会見で、首相は靖国参拝問題について「精神の自由、心の問題」と強調し、「内外から批判されることは理解できない」と繰り返した。ここでも目線がおかしい。侵略戦争の被害者たるアジアの人々が視野から外れている。中国も韓国も、A級戦犯が祀られていても個人の参拝は問題にしないという姿勢をとってきた。あくまでも、首相や閣僚の公式参拝を強く批判しているのだ。国家としての「日本」が真摯に戦争への反省に向き合っていないとの危惧を感じ取るからだろう。
小泉首相は「(靖国問題に)外国政府が介入して、外交問題にしようとする姿勢が理解できない」と真顔で反論する。「小泉純一郎個人」なら文句は言うまい。だがあなたは、日本を代表する宰相なのだ。外交を無視した無責任な態度がいかに「国益」を損ねるか、それこそ理解できないのか。そしてそれ以前に、被害者に目線を当てられないような人を、この国のリーダーにしたくはない。
06年最初の大型企画に「トヨタの正体」を据えたのは、小泉氏と同様の匂いを同社に感じるからだ。勝ち組のどこか歪んだ目線。「負け組は努力が足りないから」と自己責任論を唱え、彼ら、彼女らの実態を見ようともしない。可能な限りの年貢や労働力を搾取さえすれば、あとは切り捨てる対象でしかない。何のことはない、安っぽいドラマに出てくる悪代官や悪徳商人そのものが、いま日本では大手を振っている。
昨秋の総選挙でトヨタは自民党圧勝に一役買った。これまではあまり政治の表舞台に登場しなかっただけに、露骨な応援団ぶりに関係者は息を飲んだ。まさしく勝ち組同士が肩を組んでの小泉劇場。だが、トヨタを最大のパトロン(広告主)とするマスコミは、それを徹底批判するどころか、ほとんど報じもしなかった。先述の会見では、誰一人として小泉首相の矛盾に満ちた発言を指摘しなかった。いまや正義なきエリートと化したマスコミは、自らも目線を市民からずらしているのだ。(北村肇)