共謀罪の危険性を報道せず、「野球世界一」に大騒ぎするマスコミとは何か
2006年4月7日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
国会の衆議院議員会館地下にあるレストランで、カレーライスを食べた。2、3日、胃腸の調子がおかしかった。お店の名誉のために強調するが、決して食材が古かったわけではない。食事前に参加した院内集会が原因だ。
集会は、共謀罪に反対する表現者と市民グループが共同で主催した。冒頭、野党議員から現状報告が行なわれた。「与党は、衆議院法務委員会で、まず共謀罪の審議入りを求めたが、われわれの反対で入管法を先議することになった」。
日本に入国する海外の人から指紋を採取するという、これも許し難い入管法の改悪。悪法はまだまだある。教育基本法改悪、憲法改悪をもくろんだ国民投票法……。市民・国民を息苦しくさせる法案が、次々と国会で審議される。野党はそれなりにがんばっても、反対の大きなうねりは起きない。もどかしく、いたたまれない。
やれることはやろうと開かれたこの日の集会。ジャーナリストでは、月刊誌『世界』の編集長、ライターの斎藤貴男さんらが共謀罪の危険性を指摘、私も発言させてもらった。だが、全国紙やキー局関係者のメッセージはゼロ。毎日新聞にいた経験から、企業内記者の立場ではいたしかたないのだろうという思いはある。しかし、取材陣の中にも記者は数えるほどしかいなかった。当然、報道もされない。
「王ジャパン」が「野球世界一」になったときは、全国紙の号外が発行された。唖然とした。そもそも、準決勝で韓国に勝ったあたりから、新聞もテレビも異常な大騒ぎで、違和感があった。
誰でも、スポーツには多かれ少なかれ関心がある。その意味で、報道する価値はある。載せるなとか、極力、小さく扱えとなどと言う気はない。私も必ずスポーツ面には目を通す。しかし、「野球世界一」で号外を出す余裕があるなら、共謀罪の危険性を大々的に報じるべきだと思うのだ。
先日、ご高齢の読者から電話をもらった。話しながら、受話器の向こうで涙ぐんでいるのがわかった。「新聞はどうなってしまったんでしょう。あのとき(戦中)と一緒。もうこの国はだめです。もうだめです」と何度も繰り返される。
「同感です」としか答えられなかった。(北村肇)