オバマ政権と『子供の情景』
2009年4月17日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
19歳のとき、何を考え何をして何を創っていたのか。大学では興味のわく講座だけをとり、午後はデモに参加、夜は飲み歌い議論、たまに徹夜で麻雀をする。サークルで「米帝・日帝」を分析し、それなりに「国家」を考えた気分になり、心理学や哲学の本を読みあさりもした。だが何も創ってはいなかった。
映画『子供の情景』は、ハナ・アフマルバフ監督が19歳のときの作品だ。終わりなき戦争に陥ったアフガニスタンの現実を、子どもの目を通して鮮烈に描いている。イランを代表する監督、モフセン・アフマルバフ氏の血を引くとはいえ、その力量には驚くばかりだ。(4月18日より東京の岩波ホールで上映)
戦闘場面は何一つ出てこない。学校に行きたくて仕方のない少女が、苦労してノートを手にして教室に潜り込むが追い出される。その半日の様子が、タリバンに破壊されたバーミヤンの仏像を背景に展開する。6歳の主人公を始め、出演した子どもたちは全員が現地でのオーディションで選ばれた。
印象深いのは、子どもたちに笑顔のないことだ。愛くるしい主人公を除き、みんな大人のような表情をしている。特にタリバンの戦争ごっこの場面では、我知らず恐怖感を覚えるような目つきで“遊び”に興じる。国家が、社会が、子どもたちの笑顔も教育の機会も奪った、その現実がずしりと響いてくる。
発足から約3カ月を迎えたオバマ政権は、イラクからアフガニスタンへと戦線移動する方針を掲げている。力による侵攻だけではなく、タリバンとの話し合いの姿勢もみせてはいるが、仮に交渉するとしても、とりあえずは軍事的に優位に立ってからという戦略だろう。となれば、当然、米国にとって日本の自衛隊は重要な存在になる。今後、イラクと同様、あるいはそれ以上の「参戦」を求められるのは避けられない。親会社・米国に頭の上がらない子会社・日本の麻生首相が「NO!」と言うはずもない。かくして日本は、アフガニスタンの子どもたちから、さらに笑顔を奪いとることになるのだ。
「思想的、政治的、社会的な抑圧に耐えなければならない現在のイランで暮らす10代の女性として、たくさんいいたいことがあります」と語るハナさん。軍事力は、イランやアフガニスタンを破壊することはあっても、平和を創ることはできない。そんなメッセージを、未だに「何かを創った」と胸を張って言うことの出来ない、日本に住む57歳の胸に受け止めた。(北村肇)