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野党・自民党との戦いを、民主党は可視化しなくてはならない

 街路樹が唄っている。踊っている。秋だ。風が違う。熱が去る、この感覚。ほっとする。今年は特に、騒がしい夏だった。耳に残って消えない、候補者と名付けられた人の叫び声。「最後の首相」を迎え、駅頭で日の丸を振る支持者という名の群衆。雪崩をうち政権交代に突き進んだ、巨大で、しかし形のない有権者の塊。

 狂騒の祭りは終わった。そして始まる、低体温の暗闘。1994年、細川護 (ほそかわもりひろ)首相は退陣、自社さ政権が誕生した。毒でも平然と口にする自民党。その凄みに背筋がぶるった。密室の戦いでカギを握った一人が、だれあろう小沢一郎氏。今度は、光輝く小沢氏をだれが暗闇から撃つのか。わからない。だがどこかにいる。

 あなどってはいけない。60年以上にわたり政権の座にあった自民党。確かに公明党頼みが弱体化を進め、足腰は弱り切っている。それは事実。しかし、目には見えない「歴史」という底力は堅固だ。これまで培ったあらゆる知恵を駆使するだろう。

 約600万票。小選挙区で民主党が自民党を上回った票だ。比例代表では約1000万票で、この程度の「差」は、針が床に落ちた振動でひっくり返る。自民党議員は、初めての下野という体験に、当初はとまどう。だが、すぐに態勢を立て直すべく全力を挙げるだろう。そのときの武器は「情報」だ。官僚、財界という巨大で強大な組織とタッグを組んできた。さらに、新聞・テレビのマスコミも取り込んできた。そこで得た「情報」の中には、民主党のアキレス腱も含まれているはずだ。

 ただ、一方で、安定多数の議席をとった民主党にすりよる、官僚、企業、メディアが出現する。自民党に打撃となる「情報」を民主党が入手するのも困難ではない。そうした状況下、永田町ではどんな動きが出るのか。

 まずは、水面下の暗闘だろう。互いに、相手がどの程度の「情報」を持っているか、探り合いが始まる。場合によっては、両者で手打ちといった事態もありうる。国会では激しくやり合いながら、実は「料亭政治」で決着――55年体制ではたびたびみられたことだ。

 民主党に望む。暗闘に乗らず、市民の眼前で堂々と戦ってほしい。警察や検察の取り調べは可視化すべきだと、同党は一貫して主張してきた。ならば、たとえ自分たちに不利なことがあっても、与野党のやりとりはすべて可視化する、それこそ政治改革の第一歩だろう。(北村肇)