編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

ウィルスより恐いのは、「市民の身体」を管理したい政治権力とマスコミ

 風が吹いてもうかるのは桶屋だが、風邪がはやってもうかるのは、薬品メーカー、医学研究者、それに「市民の身体」を管理したい政治権力。そう毒づきたいほど、新型インフルエンザ騒動には辟易とする。風邪は“万病の元”であり、軽々しく考えているわけではない。しかし、政府やマスコミの反応は異常である。

 あの時のことを思い出す。5月9日、舛添要一厚労相は、新型インフルエンザ感染者が発見されたと、ものものしい会見を行なった。カナダから米国経由で帰国した大阪府内の高校生2人と引率の教員が感染。厚労省は、3人だけではなく、3人の近くに搭乗していた49人も隔離状態においた。詳細は失念したが、当該高校の校長は涙ながらに、する必要のない謝罪をした。そして、これらのことを扱うテレビ報道は、まるで「戦争前夜」のようであった。

 当時、新型インフルエンザを鳥インフルエンザと混同した市民が多かったのではないか。鳥などの動物に由来したウィルスが人間に感染して変異した場合は、何が起きるかわからない。極めて毒性の強いウィルスとなり世界をパニックに陥れることもありうる。国やマスコミの大仰な対応は、単なる弱毒性の新型ウィルスを、こうしたキラーウィルスと勘違いさせるのに十分だった。

 結果は大山鳴動――。これらがバカ騒ぎだったことは、だれもが認めざるをえないだろう。何しろ感染者はすでに500万人を超えたと言われる。5月のような対策をとるならば、1000万人以上の市民・国民を隔離しなくてはならないはずだ。街からは人が消え、経済はガタガタになっているだろう。
 
 そこで今度は「感染者が亡くなった」の大報道である。NHKなどは、連日のように死亡者についてことこまかなニュースを流す。ちょっと待ってと言いたい。毎年、インフルエンザをこじらせて多くの方がなくなっている。なぜ、これまでは報じてこなかったのか。
 
 インフルエンザが話題になれば薬品メーカーが潤うのはわかりやすい。ウィルス研究などに資金が流れるので、医学者の中には利益を得る人もいる。だが見えにくいのは国家の意図である。国は、国民が健康であることを望む。国益にかなうからだ。とともに、いざという時に「右向け右」に従う人間をつくりたがる。その意味で、インフルエンザパニックはもってこいのネタなのだ。「健全な肉体づくり」に手を染めたい国家、その危険性に不感症なマスコミ、こちらのほうがよほどウィルスより恐い。(北村肇)