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「いのち」を粗末にした企業のなれの果て、それがトヨタだ

 トヨタの崩壊は日本の崩壊につながる。経済面のことを言っているのではない。トヨタは、効率を優先し株主を優遇し、「いのち」を粗末にしてきた。そのなれの果てが今の姿だ。この国もまた、新自由主義を導入し大企業を優遇し米国に隷属し、「いのち」を粗末にしてきた。落日トヨタとみごとに重なる。

「顧客第一が経営理念」。豊田章男社長は記者会見で強調した。この期に及んで、ブレーキの不具合に対し「踏み増せば止まる」と経営幹部が漏らしてしまう企業。「車はいのちを乗せるもの」という認識も、安全をすべてに最優先させる覚悟もあるとは思えない。トップのお題目は白々しく聞こえるばかりだ。

 愛知を中心に中部地方では圧倒的な影響力を誇る『中日新聞』。かつては「トヨタ批判をしない新聞」と批判的にとらえられたこともあるが、ここ数年、同社への厳しい記事が目立ち、注目を集めている。『中日新聞』東京本社発行の『東京新聞』2月12日朝刊。前日から始まった連載企画「崩れた信頼 トヨタリコール問題」に次のような一節があった。

「トヨタは拡大期に車種数を増やし、新車の開発期間も5~6年から3~4年に短縮した。華やかな新車が続々と登場する裏で『現場には余裕がなくなっている』(開発担当者)。お家芸のコスト削減は開発現場にも及び『試作車づくりの回数が減った代わりに、図面上での確認が増えた』と明かす。新型プリウスも、こうした環境の下で開発された。ブレーキ不具合について、開発の第一線は『見落とし』の可能性を否定しない」

 全国紙に比べ、『中日新聞』の記者はよりトヨタの内情に通じているはずだ。コスト削減に走るあまり安全がおろそかにされたという指摘は、的を外していないだろう。それが開発現場にまで影を落としていたとあっては、顧客第一主義も世界一の技術も、いまのトヨタには画餅にすぎない。

 トヨタはまた、顧客だけではなく従業員も粗末に扱った。カンバン方式とはつまり人間を機械のパーツにすることにほかならない。取り替え可能な意思を持たないパーツ。それこそがトヨタの高収益をもたらしたのだ。

 一方で、一連のトヨタたたきの背景には米国の思惑があるとの見方も出ている。自国の利益最優先、世界でも名だたる「いのち」を粗末にする国だ。あってもおかしくはない。トヨタ神話、日本神話崩壊の先に、米国のなれの果ての姿が見えてくる。(北村肇)