編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

今号で編集長を卒業します。ありがとうございました。

 目的地に向かい百メートル歩いたら、立ち止まって振り返る。不思議な感覚だ。いま確かに自分で辿ってきた。でも、そこはまるで別世界のようにも見える。また百メートル歩き立ち止まり振り返る。別世界と感じた時点がすでに別世界になっている。意識を戻して前を向くと、今度はそこにも別世界が生じている。

 一本の道をひたすら前を向いて歩いて行かなくてはだめだと、子どものころ、たくさんの大人に教わった。でも人生はジグザグであり、過去を呆然と振り返ることがあり、エッシャーのだまし絵に入り込んでしまうことがあり、とても一筋縄のきれいごとではすまない。自分が大人になり初めて、そのことを実感した。
 
 本誌編集長になり6年9ヶ月。暴走したり、カイコのように丸まって反省したり、ぐっと堪えたり、快哉を叫んだりと、人生並みにめまぐるしい日々を送ってきた。ただ一点、就任時の誓い、「すべての人の人権と尊厳が守られる社会を目指して」の姿勢だけは持ち続けた。

 それに免じ、至らなかった点はご容赦ください。今号で編集長卒業です。これまでの数々の励まし、心のこもった叱咤をありがとうございました。新編集長は、若く、バイタリティーにあふれた正義漢です。必ず、『週刊金曜日』をさらに充実した誌面に変えます。ご期待ください。

 私は発行人として『週刊金曜日』のために身を粉にする覚悟です。これからもお付き合いをよろしくお願いいたします。(北村肇)