編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

今度は菅政権が追い込まれているが、もううんざりだ。

編集長後記

 今度は菅政権が追い込まれているが、もううんざりだ。

 メディア各社は、数百人程度に電話で聞いた「世論」調査によって支持率が二〇%を切って民主党政権発足後最低だと、煽り始めた。安倍政権以降、繰り返されている政権潰しのパターンである。

 民主党内でも一六人の造反議員が出るし、鳩山新党の噂も飛び交っている。小沢一郎氏も地域政党との連携の動きが取り沙汰されている。小沢氏の大義は見えない。小沢チルドレンと言われている一年生議員の中には民主党内の政争に辟易している人たちもいる。しかし、この権力争いは容易にはおさまらないだろう。小鳩時代に小沢氏に徹底的に干され、憎しみを抱いている反小沢の議員たちがいる。

 さらに解散総選挙を密かに望んでいる民主党の現役もいる。たとえば選挙に強い中堅議員だ。当選回数を重ねないと目前に置かれている閣僚の椅子に座れないからだ。すさまじい足の引っ張り合いだ。

 公約を守る気がない菅は嫌だ。だが、民主党下ろしにはその先がない。 (平井康嗣)

先週、編集委員の中島岳志さんと批評家の大澤信亮さんが対談をした。

編集長後記

 先週、編集委員の中島岳志さんと批評家の大澤信亮さんが対談をした。秋葉原事件を「言葉」の視点から考察した。内容は三月掲載予定である。
 その際、大澤さんが「命をかけて」表現していると話し、身につまされた。自分は最近命をかけているのかと問われた。腹はとっくにくくっている。しかし、命をかけてとは口ごもる。自分で命をかけてもいいと納得できる対象が存在し、自覚的に向き合い、真摯に本気で取り組んでいるからこそ吐き出せる。
 思えば、なかなかスイッチが入らない性分で、それこそ本気を求めて大学ボクシングをやっていたときもスパーリングには気乗りがしなかった。中途半端に殴り合うからだ。この競技の本気は殺る気。だから交流スパーで、体育会の首をとりにきた同好会の本気に前歯を折られ手ひどい目にあった。試合のため減量をして準備して、リングに上がってはじめて殺気もなき集中の境地にいられた。それから十何年。矢吹丈も宮本武蔵もいない現代社会で自分の本気に向かい合う。  (平井康嗣)

数十年に及ぶ単独政党の支配、米国の世界戦略上の理由ゆえ支援されてきた親米国家

編集長後記

 数十年に及ぶ単独政党の支配、米国の世界戦略上の理由ゆえ支援されてきた親米国家、長期支配が招いたコネと貧困を生む格差社会。その挙げ句の政権交代への市民の強い渇望。一方にある体制変更への保守的な不安。

 これは今週号でとりあげたエジプトの話だが既視感を覚えた。そう日本である。

 政権交代が起きた二〇〇九年。小鳩周辺は「革命だ」と騒いだ。当時はなにを大袈裟なという反応が大勢だったが、エジプトを見れば、空気のようになっていた長期独裁政権が瓦解するということは単なる政権交代ではなく、革命と呼んでも差し支えないインパクトだから、と考え直した。

 しかし戦後、米国の方角を見て国家も整備され、調教もされてきた。独裁者が退場しても容易に国は変わらないだろう。エジプトでもメディアがデモの恐さを煽り、市民はムバラク支持デモに金で転んだ。東アジア共同体がいつのまにかTPPに変質したが、政治家に強い意思がなければ、日本も米国依存からは抜け出せない。  (平井康嗣)

今週号は、問題のある悪法――ほんの一部だが――を特集した。

編集長後記

 今週号は、問題のある悪法――ほんの一部だが――を特集した。ニュースで報じられていないが問題のある法律、条文をできるだけ取り上げた。法律はその一言一句で意味合いが変わるものであり現場では文言をめぐり熾烈な争いがある。だから専門家である執筆者たちには具体的な条文にこだわっていただいた。

 一度成立してしまえば、官僚はその法を背景に下級機関への通達などで独自に法の隙間も埋め、われわれの目が届かない世界で粛々と運用し、日常生活を縛っていく。行政権力の源泉は法律なのである。

 違憲性の疑いのある法律については違憲立法審査権があり、権力行使の不当性については国家賠償請求などの手段もある。だが庶民がいちいち訴訟を起こすわけにもいかない。悪法はやはり立法責任者である国会議員たちが仕分けをし、廃止法案を出すなりして処分していくべきだ。新たな法律をつくることばかりに功名心を抱くべきではないだろう。今後はさらにさまざまな悪法の可視化を続けていく予定である。  (平井康嗣)