編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

私が政治家や官僚だとしたら政権が移っても、容易に変えられない仕組みをつくろうと考える誘惑にかられるだろう

 私が政治家や官僚だとしたら政権が移っても、容易に変えられない仕組みをつくろうと考える誘惑にかられるだろう。憲法学では改正しにくい憲法を硬性憲法、改正しやすい憲法を軟性憲法と分類する。日本国憲法は硬性憲法であるが(そのため憲法改正条項を緩和させたい国会議員は多い)、このような後戻りが効きづらい硬性な制度・仕組みという意味である。よい意味でそのような仕組みが作れればよいが、日本の政治はほとんど負の遺産の押しつけ競争である。自民党政権がつくった膨大な借金(麻生政権は最後に約一五兆円の補正予算をばらまいたし)やダムはそうだし、数万年の管理を強いる原発は典型的なソレだ。このような類は法改正によって無くすことは至難の技である。消費税も導入したら、じわじわと上がる一方だ。税と社会保障の共通番号制も同様だ。それを菅政権は今やろうとしている。憲法を変えやすいようにと主張する政治家は、他法や政策も柔軟に転換が効くような設計をまずは心がけるのが筋だろう。 (平井康嗣)

関東では七月二一日から、子どもたちは夏休みだ!

 関東では七月二一日から、子どもたちは夏休みだ! しかし、今年の夏休みは子どもたちにとってまことに不自由である。外に出て自然のある場所で思いっきり遊びたいだろうが、そういう場所ほど、放射線量の数値が高いから。
 私の周辺では、待っていましたとばかりに東京を離れて九州の実家に子どもを連れて帰る母親や、これをタイミングに八月から北海道に移住する家族もいる。無論、東京電力福島原発事故による放射能汚染を嫌ってのことである。西日本に住んでいるとぴんとこない人もいるそうだが、それが関東では当たり前のことになってしまっている。
 関東でこういう事態なのだから、福島の家族はもっと大変である。しかし、せっかく難を逃れて移住しても福島から来たということで嫌がらせを受けたりもしているとも聞く。まったく許し難い話である。自治体や地元メディアは放射線被曝について正しい情報を十分に伝えていかなければならない。私も、後知恵講釈にならないよう今やるべきことを考える。 (平井康嗣)

原発の料金の話や電力供給量の話をあらためて記事にしました

今週号では原発の料金の話や電力供給量の話をあらためて記事にしました。ただ、だから原発はいらないということを主張する企画でもありません。おやっと思うかもしれませんがこの点重要です。高い・足りないということを争点にすることは原子力による電力が安ければヨイ、供給量が不足していたら原子力がやっぱりヒツヨウ、という間違った議論におちいるからです。
 原子力は、ウラン採掘から原発の運転まで、被曝労働を必要条件とする差別の是認によって成立しています。ですから、これだけでまず賛成することはできない代物です。 
 さらに、管理を何世代もの人に負わせる放射性廃棄物を生み出す。維持管理のコストを考えない作ったもの勝ちのハコモノ的構造があるわけです。いや、ハコモノより悪質です。放射性廃棄物は放置しておけません。この原発という永久金喰い装置を考えた政治家、電力、電機はなんとウマイもうけ口を考えたと自画自賛したことでしょう。いよいよその責任をとらせなければいけません。 (平井康嗣)

千葉県のある市も市内約一三〇カ所の計測結果を発表している

 最近は、それぞれの自治体が独自に放射線量を調べていて、私の住む千葉県のある市も市内約一三〇カ所の計測結果を発表している。それを見ると、私の住んでいる町は自分で測った0・25マイクロシーベルト程度とほぼ同じ結果だった。高い数字を出したのは木に囲まれた公園や人工芝を使った陸上競技場など、私がロードワークなどで好んで訪れている場所だった。このような場所は、子どももよく遊びにくるが、0・44マイクロシーベルトなどとけっこうな数値が出ており、まことに残念に思う。横浜市港湾部の工場地帯周辺に住んでいたときは三年で喘息を発症し、環境のよいところで暮らそうと思って引っ越してきたのにこのざまだ。放射性物質と暮らす日々はしばらく続くがどうしようか。東京電力に白紙委任し、株主総会で原発推進に賛成した大株主の生命保険会社(リスクにもっとも敏感な職業であるはずなのに!)は、放射線量の多い地域に暮らす人を生命保険や医療保険、がん保険の加入などで区別したら許さないぞ。 (平井康嗣)

今週号は久々にトヨタ自動車に関する記事を入れた

 今週号は久々にトヨタ自動車に関する記事を入れた。当時の北米トヨタは、今の日本における東京電力のようなものと想像してもらえればいいかもしれないが、この問題はいまだに終わっていない。
 人命に関わる事故、閉鎖的な企業文化、消極的な情報公開、リーダーシップの欠如などなど。あらゆる点で批判され、社会問題になる条件をお釣りがくるくらい揃えていた。米政府は、トヨタについて公式に二つの機関に検証調査を依頼。一方、トヨタ自ら調査委員会を設置、市民団体も検証した。東電事故においてもせめて同等規模の検証調査をし、かかった費用は税金ではなく、東電が制裁金として政府に支払うのがいいだろう。
 中でも、厳しく追及したのが、ラルフ・ネーダーとチルドレンたちである。
 ネーダーを有名にした一つは、{Unsafe at any speed>(『どんなスピードでも自動車は危険だ』)という本だ。東電に置き換えれば、「どんな原発でも危険だ」となろうか。リスクへの構えは、かように必要ではないか。 (平井康嗣)