編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

最終号校了直前に金正日総書記死亡のニュースが飛び込むなど、今年は激動の年だった

▼最終号校了直前に金正日総書記死亡のニュースが飛び込むなど、今年は激動の年だった。
ほぼ一年ぶりに、発行人(旧編集長)と現編集長が対談をしました。

編集長の平井(以下、平)三月一一日夜は電車が止まって帰れなくなったので腹決めて浅草でのん気に酒を飲んでいたのですが……。

発行人の北村(以下、北) どじょう鍋だろ。流行ってるらしいね。

平 ……いえ、あいにく。菅政権時代でしたし。あの大震災の記憶と後遺症はいまだに痛烈ですね。

北 本当にあらためて、お悔やみとお見舞いを申し上げます。『週刊金曜日』も耐震の問題で、年末に引っ越すことになったね。

平 ほかに入っている出版社の顔ぶれがなかなかで、ビルが左に傾き始めたと言われていますけど。

北 日本は地震国だから避けがたい天災は起きてしまうけど、東京電力の福島第一原発事故は人災だよ。刑事犯と言ってもいい。

平 原発労働者に聞くと本当に異常な労働環境です。放射能と戦う紛争地域のような職場ですよ。あれをいつまで続けるつもりか。

北 まさに。本物の戦場カメラマンは当日夜、福島に飛んでいたね。

平 事故はたくさんの人を被曝に巻き込み続けていますよ。
 私が住んでいた千葉県柏市は今や関東有数のホットスポットになってしまった。
 これでも事故は終結宣言、原発は続行ですからね。野田! 千葉は地元だろうが。

北 怒れ、怒れ。「3・11」以後、全国で反原発運動もこれまでになく盛り上がった。
 本能的な怒りだ。しかし今、原子力ムラの反撃で「革命」にまでは至っていない。

平 中国やインドの核抑止のために日米は原発を持ち続ける必要があると日米安保族は言い出すし。

北 核兵器と原発はつながるから根が深いね。
 米国病の人にとっても自主独立核武装派にとっても、原発は必要だからややこしいね。

平 原発文化人たちはさすがにおとなしくなりましたけど、確信犯かつ共犯者だった学者らは、動き始めていますよ。
 このままいくと放射能汚染や被曝の調査が牛耳られ、都合のよい東電福島原発史がつくられかねない。これはまずい。

北 脱原発革命に至っていないのはマスコミの責任が大きいね。

平 電力会社と仲良しだから事故を忘れたいじゃないですか。

北 地域経済では電力会社とメディアは有力企業同士だもの。
 拡声器であるマスメディアが忘れて社会で忘却が進む負のスパイラルは恐い。
 ぼくは「出前講演」で全国を回っているけど、放射能汚染に関する知識は記者顔負けの人が多いね。
 いまもって関心は高いよ。

平 行政や東電は、子どもの慢性的な低線量内部被曝対策をきっちりととる責任がある。
 彼らのために言うけど、インチキはばれる。母親たちをなめるなと言いたい。

北 その通り! ところで、震災のほかで特に記憶にとどめるべきことは、新自由主義の行き詰まりで「99%」革命が世界各地で起きたことだと思っているんだ。

平 「99%」って比喩は民が主人公という根源的な民主主義を取り戻そうという気配を感じますね。
 九月の反原発デモの際、大江健三郎氏の発言で私も同意したことは、路上に出る行為こそが直接民主主義だということです。
 投票用紙に意思を仮託すればいいという慣れ親しんだ行為を考え直すことも必要ではないでしょうかね。

北 とはいえ、脱原発国民投票一〇〇〇万人署名は集まってほしい。

平 ですね。しかしここ一〇年以上の新自由主義的繰り返しはウンザリします。
 既得権益だとか言ってルールや組織を破壊するコイズミやハシモトのような目立つ人物がいる。
 その一方で自分たちに都合よくひっそりと再構築していく目立たない連中がいるという構図。

北 憲法も改革気分だけで変えかねない。これもあぶない。
 ハシモト人気の源泉は公務員批判だけど、根っこには一連の公務員系労組へのバッシングがある。
 労組潰しが一貫して仕掛けられているね。

平 企業系の労組と違って公務員系労組は組織力で平和や人権を掲げられるから、企業や政府には目ざわりなんでしょう。

北 『週刊金曜日』もそうか。日本は変なマッチョ社会になっているから、女性をもっと進出させないとこの国は変わらないなあ。

平 新聞ならば社会部を大きくするとか、数で変えうることはありますからね。
 政治部や経済部がはびこるとダメだったでしょう?

北 ぼくは社会部時代、取材に行くと政治家や企業にいやがられたもんだよ。
 だからこそ意味があった。「3・11」でもう一つ明らかになったのは棄民政策だ。
 「市民より財界や米国が大事」という野田政権の本音が露骨に出た。
 棄民はTPPでも言える。農村を見捨て工業国化してきた成長神話にしがみついているけど、二匹目の野田、じゃなくてどじょうはいない。
 このどじょうはすくい難いよ。

平 派遣法も骨抜き改正されようとしている。
 経済的に不安定で結婚ができず子どももつくれない派遣労働者を増やしても、人口が減り、需要も減るだけ。
 悪循環です。

北 自殺行為だ。ずれている。政権交代の大義を完全に忘れている。

平 財界やメディアに合わない総理はすぐ交代。東電の勝俣会長のほうが身分が安定している。

北 「共犯になるが勝ち」のお仲間イジメ社会の真骨頂だね。
 とはいえ、このまま「99%」の怒りが鎮まるとはとても思えない。
 二〇一二年は日本でも何らかの「革命」が起きると思うよ。
 ともかく『週刊金曜日』は常に「99%」に寄り添ってきたし、これからもその姿勢を崩さない。

平 怒りの炎は消さず二〇一二年もやりましょう。

(文中一部敬称略)

山下俊一福島県立医科大学副学長は、チェルノブイリ原発事故後にも国際協力をした日本を代表する専門家とされている。

 山下俊一福島県立医科大学副学長は、チェルノブイリ原発事故後にも国際協力をした日本を代表する専門家とされている。
 すでに刑事告発をされているこの人への疑問をあらためて思う。
 チェルノブイリの専門家をなぜ早く呼ばなかったのか。
 一一月にようやく千葉県がんセンターが第一人者を招いたという具合だ。
 原爆被害を受けた日本では外部被曝研究が中心だが、ロシアなどでは内部被曝の研究も熱心なのだ。

 またチェルノブイリでの失敗を教訓化して活かさなければならないはずだった。
 が、そうでもない。ある専門家によれば、肝心なのは事故直後の被曝情報だという。
 チェルノブイリ事故でも直後の情報はないという。
 山下氏が専門家であるならば事故直後に累積放射線量を測るバッジを住民に一刻も早く使用させなければならなかった。

 この情報が子どもの治療や補償につながるはずだった。
 一連の不作為が故意か過失か検証されるべきだろう。能力のない “専門家” に被曝事故調査を握らせてはいけない。

流行語大賞が発表されたが、今年は呆れた。

 流行語大賞が発表されたが、今年は呆れた。
 どうでもいいと思うが、これが文化として残っていく。
 大賞のなでしこジャパンは確かに私の好感度も高い。「どや顔」もしないし。

 問題だと思うのは原発関連の言葉が「風評被害」しかないのかということだ。
 これはあまりにも恣意的すぎる。
 ちょっと考えても、「福島第一原発」「ただちに人体に影響はない」「内部被曝」「シーベルト」「暫定規制値」「ホットスポット」「出てこい清水」「班目でたらめ」「脱原発」など、
ちょっと偏向しているのかもしれないが、今年定着した言葉はいくらでもあるはずだ。

 帰宅難民より「自主避難」が深刻だ。ラブ注入より「海水注入」に世間は釘付けだったはずだ。
 米国ですら海渡雄一、福島瑞穂夫妻を「グローバルシンカー」一〇〇人に選んでいる。
 理由は脱原発だ。

 ついに流行語大賞は「メルトダウン」したのかもしれない。
 あれ、審査員には姜尚中さんと鳥越俊太郎さんがいるのか……。バラエティ化を極める日本が怖い。

誌面が占拠された!

 誌面が占拠された! 雨宮処凛に松本哉って破壊力あるな。

 しかし『週刊金曜日』はお金持ちじゃないし、ウォール街に縁はないというのに。神保町すずらん通りでのカツカレーを楽しみにしているぐらいである。

 でもOccupy(占拠)されなければ生まれない特集になった。読者諸氏はどう思いましたか。

 憂鬱になる大阪W選挙があったが、選挙より占拠。そんなことを考えた現代美術展をいつか水戸芸術館に観に行ったことを思い出した。
 ただの駄洒落かと思っていたが、まさか現実化しつつある。

 政治にうんざりした世界の「99%」は無政府を超えている。無秩序の中に秩序を模索し、不信の中に信頼を産み出しつつある。
 直接民主主義という言葉でしか今のところ表現できない人びとの主体的な衝動の芽を見逃してはいけない。流行の表現で言えば、直接民主主義2・0はあるのか。

 占拠は私たちが飼い慣らされているニセの所有やニセの民主主義に対してついに噴き出したアレルギー反応なのである。

(平井康嗣)