自分に気持ちのいい物語
2014年9月19日7:00AM|カテゴリー:編集長後記|平井 康嗣
編集長後記
9月11日に『朝日新聞』社長らが記者会見を開き、吉田調書報道記事取り消しを発表した。当日、メディア関係者の間では憶測情報が飛び交いかなりの騒ぎだった。事実が間違えば、訂正するしかない。しかも大々的に報じた記事ほど影響力が大きいのだから訂正報道も大きくなるだろう。
この吉田昌郎所長は原発事故の象徴の一つになっている。だから所長をめぐる報道は感情もまじり過熱している。原発事故は避けられたのか、原発に賛成か反対か、東京電力の責任を追及すべきか、死者を批判するか、吉田所長を英雄と考えるか、民主党政権に否定的か――。私たちは何気なくニュースを見ていても、ジャッジをして自分に気持ちのいい物語をつくっている。
そもそも「慰安婦」報道も、証言の信憑性が問われ、これは否定された。吉田所長調書も同じく証言であり、公開された有力な証拠の一つにすぎないはずだ。もともと私たちは何を命題に議論をしていたのか。そこを共有し直す必要がすでに生じている段階なのだと思った。 (平井康嗣)