無責任な全体主義
2015年6月26日7:00AM|カテゴリー:編集長後記|平井 康嗣
6月22日は日韓の関係正常化を実現した日韓基本条約の署名から50年だ。そこで日韓関係で特に根深い「慰安婦」問題をあらためてとりあげた。
大手メディアはこの問題から逃げていることだろう。旧日本軍の「慰安婦」には、中国人、オランダ人などもいたのだが、韓国だけをことさらとりあげ全存在を否定しようともする。その根拠は吉田証言全否定に依拠する。この乱暴な論争を可としてはならない。しかしこの非論理的な状況には「右派」だけでなく『朝日新聞』も貢献してしまった。
今の非論理的な社会はハンナ・アレントが研究したところの「ニヒリズム」と言われる状態と言えまいか。〈ニヒリズムとは、現在のいわゆる確立された既存の価値を否定しながら、そうした価値にあくまでも固執するところから生まれるのです〉(『責任と判断』)。〈そうした〉とは「伝統」を指す。ニヒリズムの危険性は疑いを抱き思考をしようとするものの、論理的に思考や吟味ができず、無責任な全体主義を望んでしまうことなのである。(平井康嗣)