辺見庸著『1★9★3★7』を読む
2015年10月30日7:00AM|カテゴリー:編集長後記|admin
『週刊金曜日』戦後70年の目玉企画として1月から7月まで連載した辺見庸さんの『1★9★3★7』が本になった。主要な舞台は南京大虐殺の起きた1937年だ。そこで著者の父は、戦後は、「皇軍の戦争」をいかに記憶したのか。読み手に身を切るような自問自答を突きつけてくる。論壇や文壇のタブーにまみれた媒体では書き切れなかっただろう。いやむしろ小説や評論でも、なにものでもないこの文章は読み手を迷わせる。それを7カ月にわたり誌面上に掲載しえたことは、(なにもしていないとはいえ)編集人として妖しい快楽すら覚えた。『1★9★3★7』は告発性もさることながら、辺見さんの思索の痕跡を言語表現の限りを尽くし分析し再現しようと挑戦しているようだ。我々はなにかを考えているときに、一つのことを考え続けているようで、実は時空を超え行きつ戻りつめまぐるしく思索していることだろう。人の眼も目の前のなにかを見ているようで、脳は夢をいままさに見続けている。記憶も人のなかにこそある。