編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

今がチャンス

 福田財務事務次官のセクハラ発言をめぐる政府の対応は、さすがに驚いた。

 次から次へトンデモ発言が湧いて出てくるではないか。最近では、女性記者が録音し、『週刊新潮』に持ち込んだことを、「ある意味犯罪」と下村博文元文部科学相が発言した(後に撤回)。正論を吐いたつもりだろうが、日常的に女性記者がどういう状況下で仕事をしているかを、想像したことがあるだろうか。

 レイプ事件をもみ消した現政権だから、何を言っても無駄、と悲観的になってしまうが、声を上げた人を孤立させてはいけないし、今が世論に訴えるチャンスだ。

 米軍による性暴力が絶えない沖縄の現状についても、この政権がどれほど痛みを共有しているか、19日に開かれた本誌主催のシンポジウム「沖縄は孤立していない」を聞きながら、情けなくなった。

“安倍応援団”の一人、百田尚樹氏に名指しで攻撃をうけた阿部岳『沖縄タイムス』記者が、今週号から政治コラムの執筆陣に加わってくれた。健筆を揮ってくれると思う。

本質を突く

 米英仏によるシリア攻撃のニュースが入る。国会前のデモでは大勢の人たちの怒りが炸裂というニュースも入る。

 本当はこの日、国際メディア・女性文化研究所設立記念シンポジウムに出かけ、あわよくば、デモに参加し、最後はSさんからお誘いがあった読者会に、と考えていた。が、どれも実現せず。

 子どもが高熱でうなされ、おたふくの疑いが濃厚ということだったからだ。複数回罹患した私に感染する心配はない。本人が熱性痙攣を心配していたので、ベッドのそばに椅子をおいて、一晩中様子を見る。

 月曜日には医者に行って治癒証明書をもらい、子どもは登校するはずだったが、なんとおたふくの検査は陰性。そうこうしているうちに自分の体が燃えるように熱くなってくる。こんな展開ってあり?

 熱にうなされていても、イラク日報の隠蔽をめぐる川口創弁護士の記事は明快で、頭にスッと入った。本質を突いている。ああ、でももう限界、ふらふらしながら会社を退散した。

どこを向いているのか

 政府はどこを向いて仕事をしているのか。辺野古新基地の完成後、周辺にある沖縄工業高等専門学校や沖縄電力の送電鉄塔が、航空機の安全離着陸のための高さ制限を越えていることがわかったという。沖電には移設の要請をしているが、「学生と職員計921人が過ごす高専には説明していない」(4月10日付『沖縄タイムス』1面)。

 姑息な対応の違いが意味するところを改めて考える。もっとも大きな危険にさらされるのは誰か? 住民だ。その住民には知らされない。確かなのは、最優先すべきものが住民ではないということだ。

 今週号では、朝鮮半島有事の平和的解決に向けて、関係諸国が動き出しているにもかかわらず、安倍政権が軍事大国化を一辺倒に進めている実態を報告する。

 昨年の4月21日号で後田多敦さんが指摘してくれた「東アジア秩序や社会の破壊者としての日本の誕生」の歴史を思わず重ねてしまう。東京の為政者からは想像もつかない光景がそこからは見えてくる。

姫リンゴと罪悪感

 お、歩いている。住んでいるマンションの隣室から声が聞こえると思ったら、小さな兄弟が2人踊り出て、廊下を走り出した。

 これまで1人はベビーカーに乗っていたのだけれど。もしかして今日が保育園の初登園の日? つづけて荷物をたくさんもった両親が出てきた。

「おはようございます」
 挨拶を交わす。

 この季節、思い出すことがある。子どもの誕生祝いに自治体から姫リンゴの小さな鉢植えをもらったのだ。ベランダに置くと白くてすがすがしい花をたくさんつけた。大切に育てようと思ったのだけれど、枯れてしまった。

 2人目のときも「今度こそ」、と意気込んだが、枯れてしまった。自分のダメ親ぶりが情けなかった。たまたまこの週末に2日だけ戻ってきた大学生の子どもとその話になった。

「それはね、子育てでいちばん忙しい時期だったからだよ」と言われた。なるほど。これまでの罪悪感が吹き飛んだ。それならリベンジを、とも思ったが、やっぱり怖い。また機会があれば――。