編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

電話帳にドリル

 雪の舞う日、地方都市の実家に急ぐ。家に着くと、居間の入り口で93歳の父と87歳の母がなにやら作業をしている。見ると、父がドリルを抱えている。分厚い電話帳に穴をあけようとしているのだ。でもうまくいかないという。

 まさかそれを傍で見ているわけにはいかない。「替わるよ」。そうはいってみたものの、なんで電話帳にドリル? と疑問が一杯。渡されたドリルはずっしりと重く、スクリューの部分は不気味に長い。スイッチはどこにあるの? 私、ドリルなんて一度も使ったことなかったっけ。

 幸い父が穿った穴が最後まで通っていたことがわかったので、作業は無事終了。開いた穴にひもを通して、母は満足げに電話帳を壁に掛けた。

 こんなふうに二人で生きているのか。私の知らない両親の生活を一気に身近に感じた。心の底から、1日でも長くこんな日が続きますようにと願った。近くから、1月27日に投開票される地方選挙の候補者の演説が聞こえてきた。両親とも期日前投票に行くそうだ。

安心と悩みとお詫び

 以前、本誌の座談会に登場いただいた高校生が、通っていた公立高校を辞めてしまったと聞いて気をもんでいた。年始年末は時給を上げることを条件に1日14~15時間、コンビニのバイトをこなし、学費を貯める頑張り屋だった。「IT系の学校に通いたい」と夢も語っていた。その後通信制の高校に移り念願の進学が今春決まったと、最近、聞いた。ほっとした。

 一方、就職した会社で役員のセクシュアルハラスメントに遭い、悩んでいる女子の話も聞いた。外国籍の彼女は、会社を辞めたくても簡単に辞められない。加害者は心底卑劣だ。加害を止めさせるため、いま本人は勇気を出し、関係者も知恵を絞っている。

 昨年12月21日・19年1月4日合併号44頁「浜矩子の経済私考」左列下から4行目の「認識にズレ」は、「認識に狂い」となっていたものを編集部が独断で変更したものです。筆者の了解を経ずに手を入れることは、越権行為であり許されることではありません。浜さんに心からお詫びいたします。

いよいよか

 年始年末、個人的には原発関連のニュースに目がいった。まず、東京電力福島第一原発事故による汚染をめぐる早野龍五東京大学名誉教授らの2本の研究論文で、福島県伊達市の同意していない市民のデータが提供されていた問題。

 さらに「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していた」(『毎日新聞』)問題。早野氏の論文については本誌17年6月30日号で黒川眞一高エネルギー加速器研究機構名誉教授が「福島の放射能汚染を過小評価してはならない」として批判をされていたこともあり、おおいに気になる。

 サプライズは経団連の中西宏明会長が年頭、原発について「国民が反対するものはつくれない」と発言したことだ。りそな銀行も「核製造企業への融資禁止」を打ち出した。昨年最後の仕事で、長年一貫して脱原発を提唱している俳優の石田純一さんから経済人の動向を聞いていたので「いよいよか」と頷いた。石田さんのインタビュー記事は近いうちにお届けできると思う。