編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

電話帳にドリル

 雪の舞う日、地方都市の実家に急ぐ。家に着くと、居間の入り口で93歳の父と87歳の母がなにやら作業をしている。見ると、父がドリルを抱えている。分厚い電話帳に穴をあけようとしているのだ。でもうまくいかないという。

 まさかそれを傍で見ているわけにはいかない。「替わるよ」。そうはいってみたものの、なんで電話帳にドリル? と疑問が一杯。渡されたドリルはずっしりと重く、スクリューの部分は不気味に長い。スイッチはどこにあるの? 私、ドリルなんて一度も使ったことなかったっけ。

 幸い父が穿った穴が最後まで通っていたことがわかったので、作業は無事終了。開いた穴にひもを通して、母は満足げに電話帳を壁に掛けた。

 こんなふうに二人で生きているのか。私の知らない両親の生活を一気に身近に感じた。心の底から、1日でも長くこんな日が続きますようにと願った。近くから、1月27日に投開票される地方選挙の候補者の演説が聞こえてきた。両親とも期日前投票に行くそうだ。