編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

恐ろしい

 台風19号の被害は長引きそうだ。被災された方々が暖かいところで安心して過ごせるように、一日も早い復旧・復興が待たれる。今週号で報告してくれた執筆者のなかには、支援に駆け回りながら原稿を送ってくれた方もいる。

 除染廃棄物の入ったフレコンバッグの流出と、それをめぐる行政の対応は杜撰極まりない。そもそも仮置き場に積まれたフレコンバッグが自然災害で被害を拡散することは、誰でも想像ができたこと。会見した小泉進次郎環境相には事態を打開する意思も能力も感じられない。どうする?

 先日会社にいらした方から、福島の山野に生えたキノコから何万ベクレルの値が出たことをきいたばかりだ。福島原発事故の影響は、大地に海に、いまも刻印されている。

 東電刑事訴訟の判決の酷さは、今回の特集で実感できた。福島原発事故のために救助されなかった人たちのことが、判決要旨にないという海渡雄一原告代理人の指摘にはたじろいだ。国家中枢には選別された事実しか残らないとしたら、恐ろしい。

台風19号

 台風19号は各地で猛威を振るった。亡くなられた方々にはお悔やみを申し上げ、被災された多くの方々には心からお見舞いを申し上げたい。政府は13日、漸く非常災害対策本部を設置した。人命救助を第一に最善を尽くしてほしい。今週号はアンテナで、来週号で詳しく報じたい。
 今回氾濫した千曲川と2017年3月に運用を開始した浅川ダムについて、ジャーナリストのまさのあつこさんが本誌07年3月30日号で警告を発していた。浅川と千曲川合流付近で起きる浸水被害はダム建設で防げないこと、長野五輪に先駆けて開通させる新幹線の車両基地とダム建設がバーターであったこと──。懸念された浸水は、決壊という最悪な事態により起きた。なぜ防げなかったか?
 イラストレーション、デザイン界に革新を起こし、映画監督でもあった和田誠さんの訃報が校了日ぎりぎりに届いた。『話の特集』で長年お付き合いのある矢崎泰久さんに11月8日号「話の特集番外編」で追悼していただきたいと考えています。

関西電力の闇

 関西電力幹部らによる金品授受問題の闇は深い。衆院本会議で7日、立民の枝野幸男代表が調査を求めたことに対し、安倍晋三首相は「第三者委員会での解明」で躱した。

 本誌によく企画の提案をしてくれるNさんから連絡があった。彼は原発から歴史問題まで解説する「おしえて!ゲンさん!」というサイトを開いている。そこに原発交付金の現状を伝える「原発の経済効果」をアップしたところ、閲覧者が増えているというのだ。市民の関心は高い。

 本誌では、東電刑事裁判の判決をめぐる検証も控えている。そこにこんな大きな疑惑が出て、正直頭を抱えた。だがこの問題、呆れはするが、驚かない。原発とカネは切っても切れない関係だからだ。原発を作って動かすということには構造的に不正義が必要、と思うからだ。

 ただ、死人に口なし、責任を死者に覆い被せて、関電幹部が被害者であるかのように報ずる動きも見られるが、そのような動きには与しない。巨額のカネの出所を考えれば当然だ。被害者は私たちだ。

やわらかな感性

「凄い試合!」。ラグビーワールドカップ2019日本大会の様子は編集部内でも話題になっている。

 私はラジオやネットで結果を知るだけだが、9月28日には日本チームがアイルランドに歴史的勝利を収めたという。個人的には松島幸太朗選手の活躍が気になる。安倍晋三首相によるツイッターでの祝福メッセージには引いてしまったが。

 最近『軍馬と楕円球』(中野慶=著、かもがわ出版)という小説を読んだ。高校のラグビー部員、吉沢鉄朗が主将に退部を告げる場面から始まる。そして、戦争に徴発され、数奇な運命を辿った馬の歴史を調査する話へと続く。現代の高校生の部活動と戦争というのは結びつきそうもないテーマに感じられるかもしれないが、予想外の展開と知られざる歴史的事実に好奇心を刺激され、一気に読んだ。

 若い人は私が考える以上にやわらかな感性をもって、多様な現実を生きているのかもしれない。いや、いくつになっても、自分で枠をはめずに好奇心を持ち続ければ……。