編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

中村医師から学ぶ

「ペシャワール会」の現地代表・中村哲医師のお別れ会が1月25日、福岡の西南学院大学で開かれた。同日、さいたま市浦和区でも、アフガニスタンでの中村医師の活動記録映画を上映するなどして追悼の集いを開催する旨、事前に連絡を戴いた。全国で同じような会が催されているのかもしれない。私たちは、いかに大きな人を失ってしまったのか。

 昨年の12月20日号でお約束した記事を今週号で掲載した。ペシャワール会の活動は今後も伝えていければと思う。

 アフガニスタンの旱魃もそうだが、気候変動の問題は重大だ。ウズベキスタンのアラル海は干上がってしまったが、JICAの永田謙二さんによるとイランのウルミエ湖も2000年頃から縮小を始めた。アフガンのヘルマンド川の流量も調べたが、この一帯が同時期から旱魃傾向が続いていることは間違いないという。ただ、温暖化の影響かどうかはわからないそうだ。

 自然に対する謙虚なまなざしと文明のおごりを戒める思想──それこそ中村医師の活動から学びたい。

最後のセンター試験

 最後のセンター試験がこの週末に行なわれた。小さなミスはあったようだが、ほぼ滞りなく終了したようだ。

 批評家の若松英輔さんが国語に出題された原民喜の「翳」をめぐり、ツイッターで発信されていた。私は恥ずかしながら読んだことがない。わが家にも受験生がいるので「翳」について聞こうとしたところ、堰を切ったように泣き出した。試験の緊張が解けたせいもあるのだろうが、悲しい話に弱い娘はただただ号泣するだけ。そして一言「××がかわいそう」。新聞に載っていた試験問題を家人が探して読む。「で、どこに○をしたの?」。受験生曰く、「間違っていたら××が憎らしくなるから知りたくない」。

 若松さんはこういう。「もし解答が誤っていることに悩んでいるなら、こう言いたい。『君は、原さんの言葉を超えて、原さんの心にふれたから間違えたんだ。文字上では誤りでも、君は、意味の世界では『正解』以上のことを経験したんだ』」。この言葉をそっくり、我が家の受験生にも送りたい。

直視する必要

 昨年末、閣議決定した海上自衛隊の中東派遣は、野党の反対を押し切り強行された。また、安倍晋三首相の中東訪問は、米・イラン関係が最悪の事態を免れたことで実施。今日の朝刊ではサウジアラビア皇太子との会談の模様が伝えられた。

緊張緩和のために安倍首相が皇太子に外交努力の必要性を訴えたという記事を読むと、鼻白む思いがする。

 安倍首相は武器輸出三原則を緩和した張本人。昨年開催された武器見本市の記事を今週号で載せているので特にひっかかる。一方、皇太子は無罪となったが、自国の反体制ジャーナリスト、カショギ氏の殺害事件で側近の関与が疑われていた。会談の裏で一体どんな話がなされたのか。

 ウクライナ旅客機墜落の原因がイランによるものであるとわかった。あまりにも大きな犠牲だ。2014年、ロシアがウクライナ上空でマレーシア航空を撃墜した事件の現場写真を「世界報道写真展」で見たことを思い出す。目をそむけたくなる写真だったが、だからこそ直視する必要があったと今は思う。

自由を愛した北村さん

 年末年始に重大ニュースが飛び込んでくるのは例年のこと。だが、今年は余りに多い。

 さらに私たちには別れもあった。前発行人の北村肇さんが暮れに逝去したことだ。会社を離れたのは一昨年の9月。その後もこんなメールを送ってくれた。「今日たまたま鶴瀬で小さな本屋を見つけました。入り口前の雑誌スタンドに『金曜日』がどんと置いてありました。思わず写真を撮りましたので添付します」

 私は誇らしくその写真を眺めた。その細やかな気遣いが嬉しかった。作り手が何を糧に日々、悪戦苦闘しているのか、痛いほどわかっているからだろう。どんな違いがあろうとも、北村さんはいつも私たちとともにあろうとした。

 昨年7月に書評原稿の執筆を依頼した。いったんは引き受けてくれたが、容体の悪化を理由に返上された。同月末からは、その連絡も代筆になった。

 自由を愛した北村さん、この世の中、息が詰まることばかりだったのではないですか。どうかゆっくりお休みください。