編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

おぞましい

 臨時国会が始まった。菅義偉首相の所信表明演説では完全無視か。前日に核兵器禁止条約の批准国が50カ国に達して、来年の発効が確定したことだ。

 日本が不参加であっても、核廃絶に向けた国際社会の動きを被爆国の首相として讃える格好の場であったはずだ。被爆者たちの地道な活動は菅首相の眼中にはないのだろう。核保有国の冷淡な態度、同調する日本政府にはおぞましいものを感じる(菅首相は「その指摘は当たらない」と切り捨てるだけだろうが)。

 今国会では2本の法案が特に気になる。1本は東京五輪・パラリンピックの開催に伴って休日を移動する法案。まだ来年の休日が決定していないからだ(カレンダー業界はさぞ困惑していることだろう)。

 もう1本は郵便法改正案だ。週6日の配達義務が週5日に変更され、土曜配達は廃止される。また、差し出し日から配達までの日数が3日から4日に緩和される。定期購読されている方々への本誌の到着が遅れることにもなる。市民生活への影響は計り知れないと思う。

控訴審

 本誌記事で名誉が毀損されたとして会社経営の男性(以下、原告)が本社と筆者に1億1000万円の損害賠償を求めた裁判の判決言い渡しが先月、京都地裁(増森珠美裁判長)であり、10月2日号本欄で報告しました。判決は本社らに連帯して110万円を支払うよう命じましたが、これを不服とし、原告と筆者は控訴しました。

 当該記事は2018年7月6日号で成田俊一氏が執筆した「警察の闇 暴力団の破門状事件めぐり京都府警が過去を隠した男」。京都府警本部の新築工事の警備業務を、元暴力団組員であったと疑われる原告の経営する警備会社が受注し、そこに府警の幹部警察官が天下りして要職に就いていると指摘。元組員と府警との癒着の可能性を問うものでした。

 記事では原告が組員であったか否かについて、複数の証人の証言をもとにその可能性が高いことを疑惑として指摘、原告は組員ではなかったと争っていました。大阪高裁で行なわれる控訴審では本社も引き続き当事者として争っていきます。

注目したい

 間違ったことをして、それを押し通そうとすると、次々と嘘をつきつづけなければいけない。さすがに公然と嘘をつくことがはばかられる国会答弁で、前政権は「ご飯論法」なるごまかし(「朝ご飯食べた?」「(パンだったから)食べていない」)や論点ずらしに走った。

 今回の日本学術会議の任命拒否問題を巡る政府の答弁をきいていても、まさにそういう事態に陥っていると感ずる。まもなく臨時国会が開かれるが、メディアも追及の手を緩めてはいけない。

 安倍晋三前首相のさまざまな疑惑について、強弁をつき崩し、真相究明に寄与した国会議員の一人が、今週号に登場いただいた小川淳也衆議院議員(立憲民主党)だ。

 インタビューに立ち会わせてもらったが、国会質疑を見て抱いたイメージ通りだった。弱さに向き合える強さを持っている。小川さんの場合は、小選挙区のライバルが平井卓也デジタル大臣なので、よけいに世襲でない政治家の心意気を感ずる。菅首相にどう挑むか。注目したい。

お家芸

 きょう、全国紙の政治部記者の方と話す機会があった。

「菅政権は発足時、なぜあんなに支持率が高かったのでしょう?」と私。記者さん曰く「安倍政権が終わったからではないですか」。菅義偉首相への期待が高いわけではなく、首相交代が歓迎されたということ。健全な反応というべきか。脱力してしまう。

 日本学術会議新会員候補者6人の任命拒否問題は、菅政権が安倍政権とまったく変わらない体質を持っていることを表した。

「国の特別機関として政府の指示を受けず、独立に職務を行なうことを法によって保障され、社会と政府に対して政策提言や助言を行なうことができる機関」。2011年7月~9月、日本学術会議会長を務めた広渡清吾氏が本誌のインタビュー時にしてくださった日本学術会議の説明である。

今回の政府の行為が本来の政府と日本学術会議のあり方から逸脱していることは明白だ。

 前政権の手法がいまも有効と思ったら大間違い。これが菅さんのお家芸であることもバレバレだ。

これでいいのか

「自助・共助・公助」ということばが無情に響く。

 貧しい者から富める者にお金を移転させる経済政策のせいもあって、市民の生活の基盤はがたがた。その上に今年はコロナ禍が襲った。生活保護申請件数も増加、自殺者も増加。にも拘わらず、新政権がこの時期に発するメッセージが「自分でできることはまず自分で」。これでいいのか。

 本誌が掲載した記事をめぐり、会社を経営する男性が名誉毀損にあたるとして、(株)金曜日と筆者を相手取り、1億1000万円の損害賠償などを求めて提訴した裁判の判決の言い渡しが9月28日、京都地裁(増森珠美裁判長)でありました。

 当該の記事はジャーナリストの成田俊一氏が執筆した「警察の闇 暴力団の破門状事件めぐり京都府警が過去を隠した男」(2018年7月6日号掲載)です。

 裁判所は、本社と成田氏に対し、連帯して110万円を支払うよう命じました。

 裁判の詳細と本社の見解は追ってお伝えします。