編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

あきれるばかり

 安倍晋三前首相の「桜」疑惑について、東京地検特捜部が前首相の公設第一秘書らから任意での事情聴取をし、政治資金規正法違反などの有無を調べていることが報道された。2013~19年の「桜を見る会」前夜祭の費用を、前首相側が負担をしていたのではないかという疑いがかかる。本誌今週号でも取り上げた。

 前首相は、数々の案件で疑惑を生み、説明責任を果たさぬまま辞任してしまった。

「ようやく?」という言葉が浮かんでしまうが、慎重に調べを進めているのなら、それは結構なことだ。菅政権の日本学術会議の任命拒否問題の陰で報道が少なくなったが、疑惑が消えたわけではない。

 安倍前首相は、「慰安婦」報道をめぐり本誌発行人・植村隆が櫻井よしこ氏を相手に起こした名誉毀損訴訟の上告を最高裁が11月18日、棄却したことをうけ、事実に基づかないことをフェイスブックに書き込んだ。

 呆れるばかりだ。裁判については今週号アンテナ欄で取りあげているので、詳しくはそちらを見てほしい。

第3波

 新型コロナは第3波が心配されるほど感染者が増えている。政府のGo Toトラベル、Go Toイートなどの事業がうらめしい。参議院宮城選挙区選出の桜井充議員が新型コロナに感染したという(先頃、国民民主党から自民会派入り)。お見舞いを申し上げたい。11月13日にPCR検査で陽性が判明してから3日間のことをメルマガ「ドクター桜井の日本診療」に書かれていた。そう、桜井議員は医師。入院を希望してもベッドの空きがなく、レントゲン検査や酸素飽和度検査すらできず自宅療養せざるを得なかったことなどを「非常に不安」「医療崩壊と言えるような状況」と綴る。痛み止めを服用し、吸入ステロイドのオルベスコを使用して症状が軽くなったという。これは医師だからできること。

 菅義偉首相とバッハIOC会長が16日会談した。この状況下で五輪はないだろう。大企業を向いた政府のコロナ対策を是正し、命を守るための政策に方向転換できるよう、桜井議員には回復後、力を尽くして貰いたい。

期待と懸念

 米大統領選は週末に事態が進展したので、特集を急遽差し替えて今週号に組み込んだ。

 トランプ大統領が現地時間4日未明にホワイトハウスで勝利宣言を行なうのを中継で見たときは、あまりの意味不明さに絶句した。米国だけでなく世界の人たちが注目する中、事実に基づかないことを米国大統領が堂々と述べているのだから。

 同7日のバイデン、ハリス両氏の勝利宣言にはそういう意味でも安堵した。ハリス氏の演説では、ジェンダーや肌の色にとらわれない人間の普遍的な価値がひとときでも確認できて、晴れやかな気分になれた。

 バイデン・ハリスで何が変わるのか、変わらないのか。まずはコロナ対策がしっかりと講じられることを期待する。米国の状況は特にひどい。

 懸念すべきこともある。『沖縄タイムス』によると「国防長官にはオバマ前政権で国防次官を務めたミシェル・フロノイ氏など、主要ポストに辺野古推進派の名前が取り沙汰され」ているという。

 まずは今週号を無事お届けできますように。

市民の記録

「女性差別……条約選択議定書」。共産党の小池晃議員が国会で「女性差別撤廃条約選択議定書」の批准を迫ったのに対し、菅義偉首相は答弁中「撤廃」が言えなかった。漢字が読めなかったのか、条約を承知していなかったのか?

 今夏、熊本女性学研究会の冊子『新女性史研究』が届いた。巻頭論文に興味を持ったことから送ってもらったのだが、中身を開いてその充実ぶりに驚いた。特集は「女性の権利確立のために」。だが、メンバーが高齢で、これが最後の冊子と聞いた。

「完全護憲の会」近刊の『三鷹事件・巨大な謀略の闇』も読み応えがあった。国労に1949~84年勤め、謀略事件の真相究明活動や裁判闘争などに関わった御年97歳になる福田玲三氏が記したもの。松本清張の著作に訂正をさせたエピソードも出てくる。

 各方面で地道に研究を重ね活動を続けてきた市民の方々の記録に接すると、国会での首相の棒読み、読み違えが違ったものに見えてくる。首相は歴史や科学にもっと謙虚であってほしい。