編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

つないでいきたい

 久々に胸にストンと落ちる言葉だった。今週号、大阪市立小学校長が松井一郎市長に宛てた「大阪市教育行政への提言」だ。

 そういうと難しく聞こえてしまうが、現場の教員にとっては当たり前のことを言っているにすぎないのではないか。その当たり前のことを現場の教員が口にできない、あるいはたとえ声に出しても、教育委員会や社会が取りあわなくなってしまったことが問題なのだろう。

 教育はだれでも自分の体験をもとに「そもそも論」を語ることができる。教育委員会制度が変わってから、一家言ある首長や国の介入がまかり通るようになってしまったことも事態を深刻にしている。

 ある編集部員が情報をつかんだが、やむを得ない事情があって大阪に飛ぶことができない。ルポライターの永尾俊彦さんに連絡をとった。永尾さんはすでにこの件はご存じだったので話は早い。

 世の中が多少変わっても、人間の育ちに必要なものはそう大きく変わることはないだろう。勇気ある提言を今後に繋いでいきたい。

「強い意志」

「2015年に成立した安保法制は憲法違反」として全国各地で提起された訴訟。これまで地裁、高裁、いずれにおいても憲法判断は回避されてきた。原告7699人、代理人弁護士1685人の安保法制違憲訴訟全国ネットワーク代表の寺井一弘弁護士とともに同訴訟を闘っている伊藤真弁護士は、今週号の特集でとりあげている集会でも、同訴訟の現状を報告されていた。

 伊藤弁護士は集会の中で日本の最高裁判所大ホールに置かれた女神「テミス」像について興味深い指摘をされていた。女神は左手に天秤、右手に剣を持つ。最高裁の女神は(諸外国の女神像と逆で)剣を天秤よりも高く掲げている。これでは「力」が「公平・平等」に勝ることになってしまうのではないか、と。

 最高裁のサイトをみると、剣は「力」ではなく「公平な裁判によって正義を実現するという強い意志」を表すのだという。ならば実際の裁判において、テミス像のように堂々と「強い意志」を、裁判官の方々は示されてはどうだろうか。

火事場泥棒

「仰しゃったことは実行するということで知られる大変誠実な方」「地味ではありますけれどもウソはつかない、それは日本人の美徳」

 中身にコメントする気になれないが、櫻井よしこさんは自民党総裁・菅義偉氏を高く評価されているようだ。なぜ首相でなく自民党総裁?

 今年5月3日に民間憲法臨調などが開催した改憲を求める集会でのことだからだ。菅さんは憲法尊重擁護義務を負う「首相」は名乗れないわけだ。

「現行憲法も時代にそぐわない部分、そして不足している部分については改正していくべきじゃないか。たとえば今般の新型コロナへの対応を受けて……」。新型コロナウイルス対応でこれだけ無策ぶり、いや自己利益追求型政策を打ち出してきた人間が、どの口で言うんじゃ、とズームで見ているこちらは驚くやら呆れるやら。

 しかも「憲法改正に関する議論を進める最初の一歩としてまずは国民投票法改正案の成立を」。

 こういうのを「火事場泥棒」「災害便乗」というのでしたっけ、櫻井さん。