編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

幻の企画

 自分の祖母に長い間、参政権がなかったなんて想像がつかない。1946年の衆院選で当選し、初の女性国会議員の1人となった佐藤きよ子さん(1919~2019年)に本誌に登場していただこうと粘ったことがあった。

 佐藤さんの近くにたまたまお住まいだったジャーナリストのIさんから佐藤さんのことを聞きつけ、市民を置き去りにした当時の安倍政権に対して佐藤さんが「どう感じているのか」「当時の状況は」と取材を進めてもらった。

 佐藤さんは当時90代半ば、なかなか質問には答えていただけない。坂の上のお宅にIさんは足繁く通ったが、結局、企画は幻に終わった。

 しかし、当時関わっていらした路上生活者支援のために毛布を集めることについては多弁で、「他者に献身する姿は当時から変わらないのだろう」とIさんと話したことを思い出す。

 最近は権力欲ばかりの議員の露出が多くてうんざりだ。「爪の垢でも煎じて飲ませたい」とIさんだったら手厳しいだろう。お二人とも、今はいない。

お詫びします

 自民党総裁選が本誌発売日の9月17日に告示され、29日に開票されます。この時期の表紙選定の難しさなどについて、9月10日号の本欄で言及しました。さらに同号の表紙写真について「同性婚訴訟」の記事から取ったと書きましたが、それは誤りでした。

 表紙写真は、同号「今週の表紙」説明にあるように、性的マイノリティへの差別に対して、東京・永田町の自民党本部前で5月30、31日に実施された抗議アクションを撮影したものです。

 同アクションは「婚姻の自由」を求めているものではないので、「すべての人に『婚姻の自由』を」のタイトルや、同性パートナーシップ制度に関する16~20頁の記事内容と、直接関係があるものではありませんでした。

 誤解を招く事態となってしまったことを、深くお詫び申し上げます。

 本誌ではより多様な社会に軸足を置いた誌面づくりを進めております。今回のような事態を再び招かないよう、部内での理解を深め、正確な報道を心がける所存です。

別世界

 9月は自民党総裁選にメディアが乗っ取られる。もちろん本誌には「自民党劇場」を実況中継する使命もないし、そのつもりもない。そもそも、ドロドロの派閥抗争や騙しと裏切りの末のどんでん返しに深い意味があるのだろうか。

 野党が求める臨時国会の開催のほうが私たちの生活にとっては重要だろう。やりたいところはドーゾ。しかし、とはいっても、総裁選の行方が世の中を左右することは間違いない。だから違う視点で取りあげようと試みる。そうすると悩むのが表紙選定だ。

 他のメディアに高頻度で露出するのは、派閥首領と候補者の顔顔顔。人の顔はアイキャッチだから……。かりに本誌に候補者の顔をでかでかと載せようものなら、クレームが殺到するだろう。「見たくないものを見せられて苦痛」「恥ずかしくて外で本誌を開けない」「趣味が悪い」等々。

 悩みに悩んで、今号の表紙は同性婚訴訟の記事から取った。レインボーカラーのマスクをした方々が自民党本部を背景に訴える。ドロドロ総裁選とは別世界。

出口見えない闘い

 東京は残暑が厳しい。通勤途中、会社近くで張り紙を見かけた。パラリンピックマラソンのために9月5日(日)は早朝から午前中にかけて通行止めとのこと。

 この気候ではマラソンはもちろんのこと、他競技でも過酷だ。体温調整の難しい選手が、身体を冷やすために苦労されていることをきいた。無事に終わることを祈るだけだ。

 オリパラは最終盤だが、当初、言われていたように菅義偉政権の支持率は回復するどころか、下降の一途を辿っている。雨宮処凛編集委員の「風速計」、保坂展人世田谷区長のインタビュー記事のなかではいずれも、政府のコロナ対策が「機能不全」と批判されている。

 そもそもPCR検査にしても、政府は途中から検査数を増やすと言っていたはずなのに、結局欧米のように検査態勢は整わなかった。保坂区長のいう「誰でも、いつでも、何度でも」の「世田谷モデル」は頼もしかった。その世田谷モデルも9月末でお終いになるとのこと。コロナ感染との闘い、どうなっていくのだろうか。