編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

総選挙

 ベランダで育てた稲の穂が頭を垂れてきた。水抜きもしたので収穫を待つばかりなのだが、雀がチュンチュンやってくる。毎年初夏には雀のお宿(巣箱)を用意し丁重にもてなしているのだが、この時期だけはいい顔ができない。網を被せているが、なかなか賢い。いいタイミングで選挙宣伝カーが現れて、そのけたたましい音で驚かせ、逃げ帰ってもらえないか、と虫のいいことを考えている。

 さて、その総選挙だ。投開票直前となる今週号では「投票所で思い出してほしいこと」を特集した。2012年の政権交代から岸田現政権に至る自民・公明による政治支配がどうであったのか。その手法を象徴するテーマを三つ選んだ。国会での答弁の様子が、ありありと思い出される。

 あわせて読んでいただきたいのが「半田滋の新・安全保障論」だ。自民党が党公約に掲げた「防衛費の対GDP比2%以上を念頭に防衛費の増額」を取りあげることになったので、本来11月5日号のところを繰り上げ掲載させていただいている。

選択的夫婦別姓

 最初に実印をつくった時、「女性は結婚で姓が変わるのでお名前だけでつくられたほうがいいですよ」とお店の人に助言をされた。社会的差別を押しつけられたような不愉快さとそんな選択肢があるのかと驚いたことを覚えている。

 選択的夫婦別姓制度が総選挙の争点になってきた。「同じ姓を強いられることで困っている」「別々の姓でいることを認めてほしい」という声に、ようやく国会が耳を傾けるようになってきたということか。いろいろな調査をみても、賛成する人たちが日本社会で多数を占めるようになってきた。政治的な課題としても長年挙げられてきたのに、いまだ制度が変わらないことのほうがおかしい。今週号でこの問題を取り上げた。

 33頁に「~制度の実現を求める意見書」を採択しないよう求める文書に名を連ねた自民党国会議員一覧を掲載。読者の方々は相変わらずの顔ぶれと思われるのではないか。

 多様な生き方に対して多くの社会制度はいまだ抑圧的だ。価値中立的な方向に向かうことを求める。

分配バーゲン

 この号が発売されるその前日に衆議院は解散をして、総選挙に突入だ。校了作業に追われるきょうは、衆議院の代表質問が行なわれた。

 岸田文雄首相、何をしたいのかよくわからない。所信表明演説では「分配」を12回使ったそうだ。総裁選でその一環として金融資産への課税強化策を示し注目されたが、所信表明演説では言及なし。代表質問で「成長と分配の好循環」をどう始めるのか、枝野幸男立憲民主党代表に問われても、「成長も分配も」が基本スタンスだと語るばかり。そのくせ、「六重苦と言われた」“悪夢の民主党”を持ち出すことだけは忘れなかった。今週号の山本太郎れいわ新選組代表と中島岳志編集委員の対談中で中島編集委員が語った一言、「岸田さんが一貫しているのはぶれること」が言い得て妙だ。

 さあ、これから選挙で街は騒がしくなる。そういえば、休止していた本誌のある読書会が再開する話も聞いた。コロナで人混みに出るのが私はまだ怖いが、そろそろ動きだすころか。

男だらけ

 総選挙の投開票日程が岸田文雄新首相の意向で早まることが報じられて、編集部は大わらわ。公示前の本誌発行が次号だけに絞られてしまうからだ。自民党は「総裁選ショー」の支持率上昇効果を継続させ、選挙を迎えたいのだろう。野党が憲法53条に基づき補正予算案の編成のために求めていた臨時国会の召集要求を無視してきたこととか、金銭授受疑惑が浮上した際、説明責任を果たさず面前から消えた甘利明さんが党幹事長になったことへの疑問とか、選挙時の判断材料にさせていただこう。

 それにしても驚いた。衆議院で議長から指名を受けた岸田さんが立ち上がり一礼するNHKのニュース場面。引いた場面からアップになるのだが、周りに映っているのがずらり男性議員ばかり。総裁選では男女比1対1を印象づけたが、こちらのほうが「現実」なのだと思い知らされた。

 今週号の小池晃共産党書記局長の発言は、ほかの政党に対する“共感的理解”に基づくもので、建設的な内容と感じた。

自民党総裁選

 今週号が校了した翌日に自民党の新総裁が決定する。読者の方が手にする頃には各メディアが新総裁について派手に報じている最中だろう。

 医師向けの情報配信サイトが1000人の会員に次期総裁をめぐりアンケートを採っていた。新総裁が最も注力すべき政策として「経済・財政政策」をあげている人が「新型コロナ対策」をあげている人を抜いてもっとも高かったことが興味深かった。

 長期の自民党政権下で、経済の舵取りがうまくいっていないことは確かだ。大沢真理東京大学名誉教授は「短期的に、科学的合理性をもつコロナ対策こそが最も有効な経済対策」と発言されていた。なるほどと思う。現状のコロナ対策には多額の税金が投入されている。だが、すべての緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除される段階になっても、渡るべきところにお金が渡っているという実感が持てないのはなぜか。

 そもそも「科学的合理性」のある対策など見たためしがない。利益誘導が最優先されるのだろう。