編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

来年こそは

 2018年に朝鮮籍から韓国籍に変更した。朝鮮籍の時は「再入国許可書」で北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)や中国などを訪れていた。「再入国許可書」とは、日本の法務省が発行するもので、在日朝鮮人が日本から海外に渡航する際、日本に戻れる許可を与えられるものだ。そこに取得した渡航先の国のビザが貼られる。パスポートとは異なる。そのため、中国では空港やホテルで「これは何ですか。パスポートを見せてください」と言われることもしょっちゅうだった。そんな不便さが嫌になったこともあって、韓国籍を取得し、パスポートも得た。格安航空券で韓国にもたびたび行くようになった矢先、新型コロナウイルスのパンデミックが起きた。

 21年も今日を入れてあと8日。今年も1年中マスクを外すことができなかった。来年こそは新型コロナが収束し、マスクをせずに外出できる日が来ることを願う。

 今年も本誌をご愛読いただき、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。(文聖姫)

NHK番組改竄事件

 今年のノーベル平和賞授賞式が12月10日、ノルウェーのオスロ市庁舎で開かれた。授与された2人はジャーナリスト。一人はフィリピンのネットメディア「ラップラー」代表のマリア・レッサさん(58歳)、もう一人はロシアの独立系リベラル紙「ノーバヤ・ガゼータ」編集長のドミトリー・ムラトフさん(60歳)である。2人への授与は、政治介入によって言論の自由が奪われてはならないという警鐘ともいえよう。

 日本でも20年前、政治介入によってある番組が改竄された。2001年1月に放送されたNHK・ETV特集「シリーズ戦争をどう裁くか」である。番組は、旧日本軍「慰安婦」制度の責任を追及した女性国際戦犯法廷を扱っている。本誌では今年1月から番組に携わった関係者のインタビューを掲載してきた。シリーズ4回目の今回は、企画を提案した当事者が初めて重い口を開いた。

 このほか、今号ではオミクロン株など、新型コロナの疑問に答えるQ&Aも掲載した。(文聖姫)

上海リニア

 2007年に上海を旅行した際、世界で唯一の高速リニア「上海トランスラピッド」に乗った。14年も前の話なので記憶も曖昧だが、走り出してから間もなく体が浮くような感覚になったのを覚えている。耳も痛くなった。それもそのはず。通常の営業運転では時速430㎞を出していたそうで、市街から空港までの走行時間はわずか7分20秒。確かに、「あっという間に着いた」ことはしっかりと記憶している。しかし、そんな早い乗り物が人体に影響を与えないと言えるだろうか。20年5月27日付『東洋経済オンライン』によると、沿線住民が地元自治体に「磁場の発生や低周波による人体への影響」を訴えていたという。

 さて、日本でもJR東海が27年開業を目標にリニア計画を進めている。今号の特集では、リニア中央新幹線の問題点についてさまざまな角度から探った。リニア中央新幹線が実現すれば、品川から新大阪まで67分で行けるようになるというが、速さを追求することで失われるものも大きいのではないか。

筑紫哲也さんを振り返って

 筑紫哲也さんは1984年から87年まで、朝日新聞社の硬派週刊誌『朝日ジャーナル』の編集長を務めた。コラムのタイトルは「多事争論」で、後にTBSの「筑紫哲也NEWS23」でも、筑紫さんが時事問題を語るコーナーとして受け継がれた。

 多事争論とは、たくさんの人がさまざまな議論を戦わせることで、福沢諭吉の言葉だ。一つの事象に一つの答えなどないと、常々思ってきた。少しでも多くの人がさまざまな議論を戦わせることで、よりよい答えを導き出していくことが重要ではないかと、私自身は思う。ジャーナリズムの世界では特に肝に銘じなければならない言葉だ。

 今週号では、筑紫さんとともに「NEWS23」を作ってきた金平茂紀さんと望月衣塑子さんの対談を掲載した。筑紫さんの仕事を題材に、ジャーナリズムの過去・現在・未来について反骨の二人が語り合った。筑紫さんが亡くなってから13年が過ぎたが、あの頃と今とで、ジャーナリズムの役割が決して変わったわけではない。