編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

地震

 3月16日の夜は疲れたので早めに寝た。しかし、午後11時36分に発生した地震で飛び起きた。揺れは結構長く続いた。意味もなく壁にしがみついた。台所で「ことっ」という音がしたので行ってみると、調味料が1瓶落ちていた。テレビをつけると地震速報が流れていた。住んでいる地域の震度は4。体感ではもっと揺れたと思っていたから、震度6強を観測した宮城や福島の方々の怖さはいかばかりだったか。インフラも打撃を受けた。同僚の中でも停電や断水を経験した人がいた。18日時点で死者は3人、けが人も160人超という。東北新幹線も脱線し、復旧のめどは立っていない。企業の工場なども停止に追い込まれているところが多数ある。

 どうしても思い出してしまうのが11年前の3月11日だ。今号では、東京電力福島第一原発事故由来の放射線物質と小児甲状腺がん多発の因果関係について、根拠が実証されたとする論文を発表していた岡山大学の津田敏秀教授のインタビューを掲載している。(文聖姫)

ウクライナとゲノム

 次々病院に運ばれるけが人、劣悪な環境下で出産しなければならなかった女性、脱出する多くの人々の列、国に残る父親と別れたくないと泣き叫ぶ男の子――テレビ画面を通じて伝わるウクライナの現状だが、断片的な報道に過ぎない。いまウクライナで何が起きているのか。テレビや新聞報道、ネットなどを通じてしか知るすべがない。読者に少しでも現場の状況をお伝えしたいと思っていたところ、ジャーナリストの金平茂紀さんがウクライナに入ったと聞いて、今号で現地ルポを書いてもらった。「ウクライナ侵攻は、現場にいなければわからないことだらけだ」と金平さんは指摘する。

 特集は「ゲノム編集食品」。詳細はぜひ読んでほしいが、豚の心臓を移植された男性の話にはゾッとした。結局、その男性は亡くなった。

 9日の韓国大統領選挙の結果、韓国では5年ぶりに保守政権が誕生する。当初は「尹錫悦優勢」と思われていたのに、なぜ接戦となったのか。詳しく分析した記事も掲載した。(文聖姫)

初めての韓国大統領選

 2月28日、韓国大統領選挙の在外投票最終日。私は東京・南麻布にある韓国大使館領事部に行き、投票した。韓国籍になったのが2018年なので、大統領選挙に参加するのは生まれて初めてだ。定住外国人の私には、日本での参政権はない。だから、20年4月に実施された韓国の国会議員選挙に参加するまで、選挙というものを経験したことがなかった。せっかくもらった権利は行使しなくちゃ、ということで、総選挙に引き続き、大統領選挙にも赴いた。手続きは簡単。身分証明書を見せて、投票用紙を発行してもらう。用紙に記された14人の候補者名の横に空欄があるので、そこにあらかじめ投票所に置かれた印鑑を押して投票箱に入れれば終わりだ。

 さて、私の意中の候補者が勝利したかどうか、この号が出る頃には判明している。誰が大統領になろうとも、南北の和解が進み、東アジアの冷戦が終わる時代を、北の指導者とともに作ってほしい。昨今の国際情勢を見るにつけ、平和の尊さを改めてかみしめている。(文聖姫)

ウクライナ

 すでに子ども14人を含む少なくとも352人のウクライナ市民が死亡したと、同国の保健省が2月27日に明らかにした。ポーランドとの国境などには避難民が押し寄せている。国境には子どもたちの泣き叫ぶ声が絶えないというテレビ報道もあった。

 今回のロシアによるウクライナへの侵攻は、ロシアのプーチン大統領がいかなる理由を並べ立てようと正当化できるものではない。プーチン氏は27日、核戦力を含むロシア軍の戦力を特別態勢にするよう命令した。ロシア国内でも反戦デモが行なわれているが、弾圧され多くの逮捕者が出ている。

 今回の軍事侵攻を遠い欧州の出来事として見過ごすわけにはいかない。今号では、ウクライナ東部紛争を巡る和平合意「ミンスク合意」を現場で取材した『朝日新聞』元モスクワ支局長に、プーチン氏の頭の中を分析してもらった。ロシアとウクライナの両国は停戦交渉実施で合意したが、予断を許さない。今後も引き続きこの問題を多方面から報じていく。(文聖姫)