編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

憲法とウクライナと維新

 自宅前の小学校にある藤棚・藤の花が満開を迎えている。藤といえば、普通は紫だが、ここのはピンクと白で珍しい。なんとも美しいのだが、私などは紅白まんじゅうを思い出してしまう「花よりだんご派」だ。お隣さんによると、この藤が満開になると、もう今年の花見もおしまいだという気持ちになるという。少し前まで駅近くのピンクに彩られた桜並木を通るのが楽しみだったが、すっかり緑一色になった。連休を過ぎれば、東京の街はもう初夏の装いになっているだろう。

 日常の当たり前の日々が一変してしまったウクライナの人々を思うと、季節の移ろいを楽しめることがいかに幸せなことなのか、今年はそんな思いで連休を迎える。5月3日は憲法記念日。第1特集は恒例の憲法特集である。ウクライナで戦争が起きている今こそ、戦争を放棄した日本国憲法の意義について改めて考えたい。そして第2特集は読者から要望の多かった維新を取り上げる。維新特集は5月20日号に後編をお届けする予定だ。(文聖姫)

怒りの矛先を誤るな

 JR恵比寿駅(東京・渋谷区)で一時ロシア語の案内表示の上に紙が貼られ文字が隠されていた一件。利用客からロシア語の表記を疑問視する声があったからだというが、差別を助長するとして、批判の声が寄せられたことで、紙ははがされ元通りになった。当然だ。そもそもロシア語に何の罪があるというのか。

 確かにロシアのウクライナ侵攻は許されるべきではない。ロシア軍が多くの民間人を虐殺したという報道もある中で、プーチン大統領やロシア当局への批判の声があがるのは当然だろう。しかし、ロシア語の案内板を頼りにしている多くの在日ロシア人がいる。彼らが差別されるいわれはない。

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)による日本人拉致が明らかになった後、朝鮮学校生徒のチマ・チョゴリが切られたり、学校の前でレイシストがヘイトスピーチをがなり立てる事態が起きた。拉致が犯罪なのは確かだが、朝鮮学校の生徒に罪はない。怒りの矛先を誤れば、それは差別へとつながる。(文聖姫)

ウクライナの地名表記について

 日本政府はウクライナの地名の呼称について、ロシア語の読み方に基づく表記からウクライナ語の読み方に基づく表記に変更しました。これに基づきテレビや新聞などは一斉に、首都の「キエフ」を「キーウ」に変更するなど、表記を改めました。

 しかし、在外公館のある都市のカタカナ表記は「在外公館名称位置給与法」(在外公館の名称及び位置並びに在外公館に勤務する外務公務員の給与に関する法律)で定められており、政府が呼称を改めるのであれば、法律を改正する必要があります。必要な手続きも経ないまま、政府が決めたからといって無批判に従う必要はないとの考えから、私自身は当面従来の呼称を使うことにしました。一方で、ウクライナの人々がウクライナ語の表記を望む気持ちも理解できます。

 こうしたことを踏まえ、本誌では当面の間、外部筆者や編集部員が個々の考えに基づく表記を使うようにしました。そのため、「キエフ」と「キーウ」が混在することになります。(文聖姫)

秩序の崩壊の始まり

 本誌では最近、ロシアのウクライナ侵攻問題に力を入れている。さまざまな角度から企画を掲載しており、今号では安全保障の側面について、柳澤協二氏に語ってもらい、国内外に避難しているウクライナの子どもたちや母親への支援をいち早く始めたNPO法人日本チェルノブイリ連帯基金の取り組みについて、理事長を務める鎌田實さんに寄稿してもらった。「戦後秩序の崩壊の始まりか」と題する小武正彦さんの視点も載せた。実際、当事国であるロシアが安全保障理事会常任理事国であることから、国連はウクライナ侵攻で十分な役割を果たせていない。ロシア非難決議で中国やインドなど35カ国は棄権票を投じた。

 今号では、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の大陸間弾道ミサイル(ICBM)についても二人の識者にインタビュー、寄稿してもらった。この問題でも、安全保障理事会常任理事国の中国とロシアが北朝鮮に一定の理解を示している。

 国際社会は分断へと進んでいくのか。(文聖姫)

漁夫の利

ウクライナ情勢に世界の耳目が集まる中、その間隙を縫うかのように、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験を断行した。ICBMの発射実験は2017年11月29日以来、約5年ぶり。金正恩朝鮮労働党総書記が実験に立ち合った。核実験やミサイル実験のモラトリアムをうたった宣言を自ら破棄したことになる。

 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』3月25日付によると、正恩氏は「いかなる軍事的威嚇にも揺るがない強力な軍事技術力を備え米帝国主義との長期的対決に徹底的に備えていく」と語った。実験が米国に向けた牽制であることは明白だが、「長期的対決」をにおわせていることが気になる。北朝鮮は昨年1月の朝鮮労働党第8回大会で核戦力の強化をうたっていた。米国との対話が実現せず、膠着状態が続く中、北朝鮮は着々と軍事力を強化していくだろう。

 4月15日は故金日成主席の生誕110周年。軍事パレードで新型ICBMをお披露目するかもしれない。(文聖姫)