編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

「憲法無視の自衛隊幹部は定年退職、憲法実践の教師は免職」のおかしさ

 少し厚手の靴下を履き、コーヒーを飲みながら、陽水かミスチルのCDでも聞いてみようか、そんな気分になる季節が訪れたと実感しつつ、ごろりと横になってみる。でも、ついつい、いつもの習い性で新聞を広げ、品性がそのまま顔に出た自衛隊元幹部の写真を見た途端、ゆったりとした空気は一気に吹き飛ぶ。

 あっと驚く奇手で定年退職になった田母神俊雄氏は退職金6千万円を受け取るそうな。何かというと厳罰主義に走るこの国は窮屈で息苦しい。むしろ温情をもった対処のほうが、本人だけではなく組織にとってもプラスに働くことがある。だが、そのことを田母神氏に当てはめるわけにはいかない。

 国家の暴力装置である軍隊の幹部が、国の正式見解ばかりか平和憲法を無視したのだ。しかも、一切、反省の言葉を口にしないという確信犯ぶり。中国、韓国とも比較的、冷静な対応だが、いつ国際問題に発展してもおかしくない事案である。あらゆる面からみて、免職が妥当だろう。

 そして何より納得できないのは、一方で「日の丸・君が代」の強制に反対する教師には、平然と重い処分が科されることだ。本誌今週号で特集したが、根津公子さんや河原井純子さんは、憲法の精神に則り、憲法の意義を生徒に伝えてきた。だが、そうした行為が不適切だとして次々と処分を受けてきた。分限免職の危機にもさらされている。
 
 憲法を踏みにじった自衛隊幹部は退職金を受け取っての定年退職、人権や平和を自身の生き方をもって示してきた教師には免職処分。どこからこんなふざけた二重基準が出てくるのか。田母神氏は「愛国者」を自認しているのだろうが、真の「愛国者」なら日本を戦争の危険性から遠ざけなくてはならない。「核兵器を持つべきだ」など、わざわざ国を危機的状態に持ち込むような発想で「愛国者」とは聞いてあきれる。根津さんや河原井さんの爪の垢でも飲んではどうか。
 
 お二人の爪の垢は石原慎太郎都知事にもぜひ飲んで欲しいと思っていたが、もう一人、対象者が現れた。今週号で取り上げた橋下徹大阪府知事だ。東西の知事がそろって歪んだ教育方針をもっているのだから、何をかいわんやだ。

「何が起きても変じゃないそんな時代さ覚悟はできてる」。【es】の一節が耳に入ってくる。さて、覚悟の先に何をすべきか。(北村肇)