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実は対立軸のない、見せかけの二大政党対立選挙の虚しさ

 虚しい。国政選挙のたびに、これではいけないと戒めつつ、どうしても虚しさに襲われてしまう。今回の参議院選挙もそうだ。何しろ争点がない。二大政党時代といいながら、明確な対立軸がない。新聞は仕方なく「消費税」を前面に出すが、民主党も自民党も「10%」を政策としているのだから、おかしな話だ。

 小泉「郵政」選挙は、表面的には「郵政民営化」が争点だった。昨年の総選挙は「政権交代」がそうだった。しかし、二大政党が鎬を削る選挙の争点は、本来、そんなものではない。国の根幹や将来に関して、根本的な理念と政策の違いをきちんと打ち出し、市民・国民の判断を仰ぐ。それこそが争点に値する。

 確かに、鳩山民主党は、先の総選挙で社会民主主義的方向性を若干ながら示した。だが、参院選のマニフェストを見る限り、消費税が典型だが、自民党的発想に先祖返りしているように見える。選挙手法も同様だ。

 かれこれ20年ほど前、自民党議員を渡り歩く凄腕の選挙屋に取材した際、「コツは何か」と聞くと、間髪をいれず答えが返ってきた。「いつ、だれに、どれだけのブツを配るかだ」。票はカネで買うものという確固たる信念を感じさせた。ただし、「ブツ」は必ずしも現金ではない。中央だけではなく各地域に存在するもろもろの「圧力団体」への利益供与も含まれる。補助金から始まって、事業の入札、規制緩和など、「利益」の形態はさまざまだ。

 その後、国政選挙や首長選挙では「風」が結果を左右する傾向が強まった。無党派層が雪崩を打って動いたときは、さすがの組織票もひとたまりもない。民主党の政権奪取も「風」あってのことだ。しかし、それを横目に旧来の組織票固めに全国を動き回る政治家がいた。小沢一郎氏である。利権を最優先する圧力団体は与党になびく。この構図は変わらない。そして、風は吹くこともあれば吹かないこともある。凪状態になれば投票率は上がらず、組織票が決め手になるのだ。

 本誌今週号では、さまざまな圧力団体が与党・民主党に鞍替えしている実態を特集した。表舞台からは一旦、消えた形になったが、民主党が勝利すれば、それは明らかに「小沢流」の勝利である。その背景には、民主党が自民党とさしたる変わりのないことへの、各団体の安心感があるのではないか。見た目だけの二大政党を軸にした参議院選挙――虚しい。とはいえ、漆黒の空に一閃の流れ星を探すのが、有権者の役割でもある。(北村肇)