北朝鮮批判は当然だが、一方で「巨悪」の米国を許すのはおかしい
2008年9月19日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
噂は、愉快ではないが、これといって不快でもない。『サンデー毎日』編集長になったころから、急に噂されることが増えた。本誌編集長に就いたら、今度は、ネット上での噂が目立ち始めた。思わず笑ってしまう類のものが多い。いずれにしても反応する気にはならない。噂は一人歩きする妖怪で、私には関係がないからだ。
そもそも『週刊金曜日』自体が噂の対象になりやすいようだ。「中国から資金をもらっているからチベット問題の批判ができない」「北朝鮮と水面下でつながりをもっている」――こんな噂に接すると、ただあきれるばかり。でも、実はほくそえんだりもする。それだけ本誌の存在感が増した証拠であると思うからだ。
北朝鮮について言えば、当然ながら、支持・称揚する記事を掲載したことはない。他国に侵入し市民を拉致するなど、いかなる「大義名分」があったとしても、到底、許されるはずがない。核開発にしても、直ちに止めさせるべきであり、被爆国・日本がその先頭に立つべきだ。
にもかかわらず、本誌が「北朝鮮の機関誌」などと噂されるのは、主要メディアが避けてきた報道をしてきたことによるのだろう。それは、北朝鮮悪玉論によって他の「悪」を隠蔽する策謀に対する批判である。
たとえば、米国はインドと原子力協定を結んだ。これを受け、原子力分野の取引規制を行なう原子力供給国グループは、インドへの輸出解禁を承認した。核保有国の拡大を阻止するために生まれた核拡散防止条約(NPT)にインドは加盟していない。つまり、米国のごり押しにより、NPT体制は事実上、崩壊したのだ。
慢性的な電力不足に悩むインドは今後25年間に40基程度の原子炉が必要といわれる。この1千億円以上のビジネスチャンスに米国が目をつけたのは間違いないだろう。北朝鮮を「悪の枢軸」と呼び、核開発を何としてでも阻止するというなら、米国はこの二重基準をどう説明するのか。北朝鮮が「悪」なら、米国は「巨悪」である。
問題はメディアにもある。北朝鮮への批判に関しては、紙面やニュース枠を最大限にとるのに、インドへの「便宜供与」問題はほとんど報じない。噂はどうでもいいが、権力の謀略情報は看過できない。それを知ってか知らずか、本質を報じない新聞・テレビはジャーナリズムに値しない。 (北村肇)