市長選は米空母艦載機移転容認派が勝った。されど「岩国は負けない!」
2008年2月29日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
高校生のころ書いた、小説とも言えない雑文を思い出した。ある動物園で「支配者」を決める選挙が行なわれる。圧倒的力を持つゾウが大本命だが、彼の強権的姿勢に反感を持つグループがペリカンを立候補させる。投票時には支持率が逆転、ペリカンの勝利は揺るぎないようにみえた。だが、勝ったのはゾウだった。
ゾウの参謀、キツネが選挙管理委員をたぶらかした結果である。ペリカン陣営は最後までそれに気づかなかった。権力に執念を燃やす人間は何でもする。法に触れようが倫理に反しようが、「多数決」を隠れ蓑にさえすれば大丈夫と考える。そんな悪辣な企みが成功してしまう、民主主義の落とし穴を描きたかった。
岩国市長選はまさに、選挙制度の陥穽を露呈した。国家がその気になれば、投票の帰趨を一定、変えられることが証明されたのだ。『朝日新聞社』が投票日に行なった出口調査によれば、米空母艦載機の移転に「賛成」はわずか18%、「反対」が47%に達した。民意が「井原勝介前市長への支持」に向いていたのは確かだ。なのに井原氏は負けた。
約9万2千票の投票者数で、期日前投票が1万9千以上。幾度も選挙取材に携わったが、これはあまりにも異常な数字だ。何らかの意図のもとに、大量の有権者が「事前動員」されたと考えるしかない。本誌今週号でインタビューに応じてくれた井原氏も語る。
「聞いた話では『(容認派候補に)投票しなければクビだ』と言われたり、特別の手当をもらったり、バスに乗せられ投票所に連れてこられた人もいるようです」
いま、私たちの手元に明確な「証拠」があるわけではない。だが、常識的にみて、民意がねじ曲げられたとしか言いようがない。
選挙は「勝ち負け」がすべてである。たとえ1票でも負けは負け。天と地の差がある。国会議員でも市長でも、負ければ「ただの人」だ。しかし、今回はそうはいかない。ここまで滅茶苦茶なことがまかり通るなら、民主主義は根底から腐っていく。それを防ぐには、直ちに新たな闘いに取り組まざるをえないのだ。井原氏には負担をかけるようで申し訳ないが、「ただの人」になっていただくわけにはいかない。
国を相手取ったいくつかの訴訟も起きる。市民の生活より米国の要求を重視する政府や与党に挑む、真の民主主義を求める闘いはまだまだ続く。 (北村肇)