編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

子どもたちに余裕がないのは、大人に余裕がないことの反映だ

 昭和30年代ブームが続く。もろにその世代の私だが、「あのころはよかった」という懐古趣味に耽りたくない。どうせ悪知恵にたけた人間がブームの背後にいるのだろうから。「貧しくても家族団らんが一番の幸せ。だから格差社会批判は的がずれています」。それこそ、意図的に問題をずらしたごまかしだ。


 
 とはいえ、ついつい「今の子どもたちは幸せなのだろうか」と考えてしまうことが多い。電車に乗ると人を押しのけても座席に座り、たちまち舟を漕ぐ。ランドセルを背負った小学生は、目の下に大人のようなくまを作っている。確かに、昭和30年代には、睡眠不足に悩む子どもはほとんどいなかった。

 報道によると、北海道大学研究チームが小学4年~中学1年の児童・生徒738人を対象に医師の面接調査をしたところ、うつ病・そううつ病の有病率が4.2%に上ったという。中学1年生に限ると10.7%で、実に10人に1人の高率だ。ちなみに、小学4年生は1.6%、5年生は2.1%、6年生は4.2%となっており、学年が上がるほど高くなる。

 同チームは、就寝・起床時間、1日のうちに外で遊ぶ時間、テレビ視聴時間、ゲームをする時間、朝食をとる時間などを尋ね、分析したが、特に関連はみられなかったという。原因は単純ではないということだろう。
 
 ただ、ひとつ実感として言えるのは、「大人に余裕がない」ということだ。小学生のころを思い浮かべる。周辺に、ガツガツした大人や、イライラした大人はあまりいなかった。
 
 工場労働者だった養父は、家に帰ってから職場の話しをしたことがない。相当な肉体労働で、賃金も低かったようだが、人間関係のうらみつらみは聞いた記憶がない。母親には「たまには勉強しなさい」と、時折、叱られたが、「いい学校に入りなさい」とは言われなかった。唯一、「お金がないから高校は都立、もし大学に行きたいなら国立」とは念を押されたが。
 
 学校で嫌なことがあっても、家に帰れば、祖父母、両親はもちろん、近所のおばさんが大きな懐で迎えてくれた。心地よい安心感は、何よりも「余裕ある大人」から生まれた。昭和30年代が懐かしくみえるのは、いまそうした大人が減ったからだ。そして、格差社会が進めば、ますます「余裕」は奪われ、そのつけはまた子どもに回ってくる。(北村肇)