編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

春画と市場

 先週訪れた永青文庫の春画展は話題になっているだけあって大混雑していた。絵について猥褻か否かという読み方だけで鑑賞することは味気なく皮相である。しかしあえて議論に乗れば、夫婦連れや女性が観客に多いという事実をもってして、そのような問いは陳腐化し始めているのではないか。猥褻の近代史は男性が支配する、男性視線の歴史でもあっただろうから。

 いっぽう私は春画を眺めていて「まったく市場の産物ってのはつくづく差異、差異、だ」と的外れなことを考えていた。平安にはじまる性交画は江戸末期へと時代が進むにつれ、表現は多彩になる。これは経済活動が支える。人は今とは違う新しい選択肢を求める。商人文化が華咲けば差異も加速する。もっと技巧的に、もっと芸術的にと躍起になる。

 その一つにもっと淫らにという絵師もいただろう。私たちは常に競争に快感をおぼえ、過去に挑む。この「わたしだけは違う」という自己顕示競争に辟易しているが、市場は足ることを知らない。割り切れず。