編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

瀬戸際

 憲法が体現する平和や人権など戦後日本が獲得したイデオロギーは批判を浴びやすい。だが「戦後」などと枕をつけずとも70年経てば人の価値観は変わる。ネットで自分好みの情報に接する機会が増えてそれは加速した。

 娯楽、美食、性的指向、天皇、思想、宗教まで、生活のすみずみにいたるあらゆる価値や考えが安定さを失っている。価値の多様化とも言えるが、多様化は優位にある価値や立場を相対化させていく。

 そもそも「新しさ」を24時間求め続ける経済(資本)を生活の中心に置いているのだから必然の成りゆきだ。絶対視された価値観に疑問を抱く行為ほどカタルシスも強い。しかし、疑問を抱いただけで否定しえたと勘違いする輩も多くて困る。

 そしていま生活を支える政治の価値も揺らいでいる。だがそれは政治家の価値観が脆弱化したからだろう。そもそも世襲議員ばかりが大臣になる政党は脆弱だ。だから為政者はますます経済に迎合し、暴力的になって取り繕おうとする。真っ当な価値を失う瀬戸際がつづいている。