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戦争で利益をあげる人は、「他国から攻められたらどうする」と騒いでみせる

 チェルノブイリ事故直後、東京でサミットが開かれた。その取材過程で、複数の識者から同じ見解を聞いた。「この事故で、20世紀型の国家間戦争は無くなる」。原発がある限り、核兵器はなくとも、通常兵器の使用で世界は滅亡する――冷厳な現実を前に、各国首脳は「冷戦構造の終わり」を悟ったことだろう。

 本誌連載「『美しい国』よ、サヨウナラ」でインタビューに応じてくれた方々も、異口同音に「日本を攻める国は存在しない」と断言した。古関彰一・獨協大学教授が明確に語る。「日本の政府も米国も、『日本が攻められる』などということはまったく想定していないと思います。想定していれば、北朝鮮に最も近い日本海側にあれほど多くの原発を作るはずがない」

 北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の脅威を喧伝する政府が、一方で原発依存政策を進めるのは、矛盾以外の何ものでもないのだ。また、経済のグローバル化により、20年前に比べ、さらに国家間戦争の可能性は低くなっている。仮に中国が日本を軍事的に侵略したらどうなるか。米国を巻き込んでの戦争になるのは避けられず、勝敗とは無関係に中国経済はガタガタになる。

 北朝鮮のミサイルが東京を破壊したらどうか。その余波は間違いなく中国にも及び、経済に大打撃を与える。そんな暴挙を中国がさせるはずはない。

 いま地球上で起きている戦火の大半は、民族紛争であり、「テロとの戦い」と称される非対称な「戦争」である。いわゆる先進国同士の総力戦など、宇宙から未確認物体が攻撃してくる程度の確率にすぎないことは、政府も政治家も知らないはずがない。

 ではなぜ、「他国から攻められたらどうする」という議論が横行するのか。単純に考えて、戦争の危機をあおることで”利益”を得る国や人間が存在するのだろう。言うまでもなく米国はその典型だ。イラクのフセイン政権にも、アフガンのイスラム勢力にも、もともとは肩入れしていた。都合が悪くなると、今度は「敵」としてつぶしにかかる。もうかるのは常に軍需産業であり、「復興」にかかわる大企業だ。そして、米国に追随することで利益を得る、一部の日本の政治家、企業……。

 自然の嵐には抗しえないが、人工の嵐は、巻き起こす黒幕さえわかれば止められる。いま必要なのは、「市民の生命よりカネが大事」な輩との戦いだ。(北村肇)