編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

トランプ・ショック

 トランプ・ショックについて考えようとするとき、思い浮かぶ歌がある。ブルース・スプリングスティーンが1980年にリリースした『ザ・リバー』だ。高校で恋愛関係になったメアリという女性とよく泳ぎに行った川を懐かしむ、今は若くはない男の歌だ。

 そこに登場する男は子どももできて19歳の誕生日には労働組合員証と結婚式に着る上着を手に入れる。男の未来は前途洋々に見えるが、月日は経ち、就職したジョーンズタウン建設会社は不況で仕事はなく、川は干上がってしまう。

 ブルースはクリントン支持を表明していた。しかし生産性はあがっても労働者階級の賃金がこの40年以上あがることがなかったという米国の現実を考えると、この歌に共感する人たちと、今回のトランプ支持者が重なって見える。

 労働者たちの苦しい現実が、なぜこれまで前面に出てこなかったのか。では、翻ってこの日本では……。就職試験に臨むための上着の1着も持てぬ若者の現実が、やはり見過ごされている。