編集長コラム「金曜日から」 編集長のコラムを公開しています。

「綸言汗の如し」――インデックス社会でもてはやされる、稀代の“ワンフレーズ”総理に贈る言葉

 故事を引用するのはあまり好きではないが、ここはやはり、「綸言汗の如し」を使うしかない。言うまでもなく、小泉首相の「言葉の軽さ」を嘆いてのことだ。
 
 今週号、「小泉首相のトンデモ発言」を特集して、改めて驚いた。コロコロ変わるだけでなく、しかとをきめこんだと思ったら、こんどは逆ギレ。いやはや、これではバラエティ番組に登場する「バカ殿」なみではないか。
 
 ただ、それ以上に気になるのは、市民の間に、「わかりやすい」「親しみやすい」といった肯定論のあること。タクシーに乗ったり、居酒屋の主人と話す機会があった時は、なるべく小泉評を聞くことにしている。すると意外にも「これまでの総理は話がダラダラしていてわかりにくかった。小泉さんの言葉は明確ではっきりしている」と評価する声が多い。なるほど支持率が下がらないわけだ。

 やや話はずれるが、最近、新聞や総合誌を読まない大学生が急増している。何人かに理由を聞いて驚いた。「あんなにたくさんの情報は必要ない。ニュースはインターネットで十分」。要は、インデックスだけあればいいというのだ。
 
ここから先はニワトリか卵の世界。「つまらないから読まれない」のか、「大学生の意識の低下」か。だが、そんなことばかり議論していても始まらない。問題は、活字離れが結果として、稀代の“ワンフレーズ”総理を生み人気者にしてしまった現実だ。

 政治も外交も経済も、一筋縄ではいかない複雑なもの。だから時に多くの言葉を用いて解説が必要になる。しかしインデックス社会では、キャッチフレーズこそが求められる。それはまた「黒白」「正邪」の結論を迫ることにもつながる。
 
「フセインは悪」「自衛隊にしか復興作業は無理」「押しつけ憲法反対」などなど、荒っぽい言葉が、こともあろうに国会内で飛び交う。その先頭に小泉首相が立ち、「わかりやすい」と拍手で迎えられる。

 もはや悪夢だ。なんとかしないと、そのうち上からの命令に「はい」と一言答えるだけの社会が――これとて単なる夢想とも思えない。

 ではどう変えるか。そのための汗をどうかくか。正直、答えはまだ見つからない。(北村 肇)