倫理観の欠如が、クスリのリスクを高める
2007年6月1日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
市販薬は、それが風邪薬だろうが胃腸薬だろうが、例外なく説明書がついている。そしてまた、例外なく小さな文字で書いてある。特に注意事項は、この歳になると、虫眼鏡をサービスにつけろと言いたくなるほど読みにくい。服用による事故を防ぐためには欠かせない情報なのに、「なるべく読んでほしくない」との意図が露骨に表れているようで腹立たしい。
薬が、一歩間違えれば「毒」になることは、別に専門家でなくとも理解している。小学校低学年のとき、結核にかかり、かなり強い薬を1年近く使用した。医師からは「難聴になるかもしれない」と言われたようだが、両親は「死」より副作用をとった。これはこれで、当然の選択だろう。
穏やかな効き目と副作用のないことが特徴のような漢方薬も、実は扱い方によっては劇薬と化す。だから、真っ当な漢方医は、患者一人ひとりの体質、症状などを慎重に診断してからでなくては、絶対に薬の処方はしない。来日した中国の漢方医に取材した際、「日本で市販されている漢方薬には、『毒』もあれば、『毒にも薬にもならないもの』がある」と言われた。
細菌を殺す薬が、人体に悪影響を与えないはずがない。完璧に副作用を抑えた薬を求めるのは、非現実的だろう。といって、メーカーや研究者が「患者がリスクを負うのは当然」と考えるのは論外だ。そうした発想が営利主義に結びつくことは容易に想像できる。
本誌今週号の特集は、医薬品メーカーと研究者との、癒着といわれても仕方ない関係について報じた。先週号では「タミフルで大もうけしたラムズフェルド」に触れた。
タミフルを販売しているのはスイスのロッシュ社だが、開発したのは米カリフォルニア州に本社があるギリアド・サイエンシズ社。このギ社が1錠ごとに10%の利益を支払う代わりに製造・販売権を譲ったのだ。米国では、ブッシュ大統領が「新型インフルエンザの危機」をあおったことで、ギ社の株価はうなぎ上り。国防長官だったラムズフェルドはギ社の会長を97年から01年初頭まで務め、退職後も大株主だった。タミフル長者の一人になったのである。
命や健康を預かる政治家、官僚、企業には、高い倫理観が求められるのは言うまでもない。最低限、「注意書き」を大書する姿勢は必要だ。 (北村肇)