はやりの「小さな政府」「官から民へ」は、単純な手口の詐欺話そのものだ
2006年1月27日9:00AM|カテゴリー:一筆不乱|北村 肇
相手が詐欺師と知りつつ、だまされたふりをして記事のネタをとろうと、旧財閥の隠し資金をめぐる儲け話に“乗った”ことがある。結構、衝撃的な体験だった。というのは、段々「ひょっとしたら本物かも」という気になっていったからである。当時、東証上場企業の役員クラスなどがこうしたペテンにひっかかる事件が、たびたび起きていた。取材するたびに、「なんとバカな。いい大人がどうかしている」と思っていたが、ほんの少しだけ納得した。
手口は単純だ。というより単純こそ決め手である。「なぜそんなカネがあるのか」「だれが運用しているのか」などなどの疑問に、スパッと答えが返ってくる。しかもわかりやすい。“証拠”となる古文書や契約書のコピーといった小道具はあるものの、余計な手練手管はない。そして最後の殺し文句はこうだ。「信用できないなら無理は言いません。顧客はたくさんいますから。ただ、損をするのはあなたです」。
はやりの「小さな政府」「官から民へ」は、詐欺話そのものだ。「賃金が高く、民間企業に比べ働かず、なおかつ必要以上の人数がいる。この公務員を減らせば、財政は良くなる」。単純でわかりやすい。だから、ころっと騙される人が多い。だが、財政破綻をもたらした責任が本当に公務員にあるのか、実は検証もされていない。
昨年の総選挙。「郵政職員を公務員から民間の社員にすれば、税金の無駄遣いが減る」という暴論が平気でまかりとおった。郵政職員の身分が公務員なのは確かだ。しかし公社になる前から郵政は独立採算性をとっていたので、給与が税金から払われていたわけではない。民間に移行したからといって、直ちに国の財政に寄与することはなかったのだ。
なぜ政府や与党は市民をだますのか。政権維持や自らのポスト確保のためだけではないだろう。米国が日本政府に毎年、突きつけている「年次改革要望書」の存在がかなり知られるようになってきた。その要望に応えるためには、日本も米国流の新自由主義になるしかない。これは戦後一貫して自民党政権が行なってきた「公平分配」政策の大転換であり、まさしくイデオロギーそのものの変革なのである。
だが小泉首相が唱えたのは、「郵政改革」「公務員削減」の単純なフレーズだけだった。日本を新自由主義国家にすることで最も得するのは米国である。他国を利するための「小さな政府」。「売国」にもつながりかねないこの真実はいまだに隠蔽され、市民は騙され続けている。見え透いたデマを流す者こそ”真犯人”。それが通り相場だ。(北村肇)