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「勘」の宰相の次は、「運」の宰相の出番か

 これはまずいと思いつつ、過去の自民党総裁がまともに感じられてきた。田中角栄氏や宮沢喜一氏はもちろん、「日本は不沈空母」の中曽根康弘氏や、「神の国」発言の森喜朗氏でさえ、それなりの存在感があったと、つい考えてしまう。日本をおかしな方向に引っ張った面々が相対的に浮上するほど、事態はひどい。
 
 もはや消化試合。天変地異でもない限り、安倍晋三氏が自民党総裁、つまりは首相に就任する。「郵政民営化」だけの小泉純一郎氏に続き、「何もない」安倍氏の登場である。

 小泉氏の場合は、それでも「自民党(的体質)をぶっ壊した」面はある。評価できるかどうかは別にして、派閥レベルで永田町が動きにくくなったのは事実だ。大衆煽動型政治を確立した点でも、名前は残るだろう(ただし悪役として)。
 
 だが、その小泉氏が実質上、推薦した安倍氏には、どんな実績があるのか。北朝鮮の拉致問題、NHKの番組改ざん問題以外、彼が゛活躍゛した場を思い浮かべることができないのは、私だけではないだろう。

『美しい国へ』を読んでも、政治家としての確固たる政策や信念が浮かび上がってこない。「闘う政治家」との言葉は踊っても、内容が伴わない。中には、どう解釈していいのか、首をひねらざるをえない部分もある。たとえば拉致問題のくだりで、こう書かれている。

「企業の駐在員をはじめ、海外で活動している日本人はたくさんいる。犯罪者やテロリストにたいして、「日本人に手をかけると日本国家が黙っていない」という姿勢を国家が見せることが、海外における日本人の経済活動を守ることにつながるのである」。

 ではイラクで日本人が拉致されたとき、なぜ「自己責任」の名のもとに冷淡とも思える態度に終始したのか。その説明はない。全体に、自分に都合のいいことだけつまみ食いした本だ。哲学のかけらも感じられない。
 
 安倍氏を応援する議員には下心がある。というより下心しかない。゛人気者゛に乗り、選挙に勝つ、役職をもらう。この連中の口から、「愛国」とか「国益」とか出てくると、のけぞってしまう。真に日本のことを思うなら、「安倍支持」はありえないはずだ。

 小泉氏は「勘」の宰相と言われた。ならば、安倍氏は「運」の宰相。(北村肇)