表現の自由に重大なインパクトもたらす都の青少年条例改正案
2010年5月28日6:24PM
東京都は、三月四日、児童ポルノに関わる性表現規制を拡大強化する青少年条例の改正案を都議会に上程したが、マンガ家などをはじめとする強力な反対などもあり、三月議会では採択が見送られ、改正案は継続審議となったことは読者もご存知と思う。改正案の審議は六月議会で改めて行なわれるが、当初の改正案がそのまま進められるのか、修正が施されるのか、またそれらに対してどういう形の決着が図られるのか、現段階では不透明で、予断を許さない。今回の改正提案は、この国の表現の自由のありようにきわめて重大なインパクトをもたらすことが危惧される。
児童ポルノ法の改正をめぐっては、昨年六月に衆議院の法務委員会で参考人を呼び論議するなど国会でも審議され、そこでは自民、公明両党が単純所持罪を導入し、マンガ等の創作物規制も調査研究する規定を設ける法案を準備してきた一方、民主党は現行の児童ポルノの定義を狭め、限定化するとともに、有償ないし反復の取得罪を新設するなどの法案を提示してきた。修正協議の動きもあったが、その間に政権交代もあり、現時点では法改正に向けて直ちに進むという状況にはない。
そういうなか、都が提出したのが、青少年条例を改正し、
(1)知事が、一八歳未満の「非実在青少年」による性交等を描写した創作物を新たに不健全図書に指定でき、販売業者等は、青少年への販売・頒布等をしてはならず、包装や区分陳列も義務付けられる、
(2)何人も児童ポルノを所持しない責務をもつ、などをはじめ、
(3)発行業者や販売業者は、関連の創作物については青少年の閲覧等に不適当である旨の表示、青少年への不販売等、包装や区分陳列などに努める、
(4)官民一体となって、児童ポルノの根絶や関連の創作物のまん延を抑止し、青少年の閲覧等がないように努める、
などを含む一連の措置だ。
今回の提案は、早い話、国のレベルで自公が企図しようとしてなお実現できていない単純所持罪とマンガなどの創作物規制を中核とする児童ポルノ法改正の実質化であり、その恰好の呼び水であり、先駆けに他ならない。都条例がそのまま改正されれば、現行法でもあいまいで広範な青少年条例の規制枠組みに、創作物規制と単純所持規制が加わることにより、青少年の性をめぐる創作の自由や、自由なアクセスと闊達な議論は著しく狭められことになる。これを機に、他の自治体も追随し、ひいては児童ポルノ法の改正にも重大な影響をもたらしかねない。
児童ポルノや性表現は表現の自由と無関係な問題ではまったくない。人々の道徳や内面にも深くかかわる事柄だ。言論表現の自由への抑圧や介入が、エログロ表現批難を口実に強められ、広げられた戦前の教訓を忘れるべきではない。それにしても、都条例や児童ポルノ規制を表現の自由の問題として正面から受け止めず、伝えられないメインストリームのメディアは本当にジャーナリズムの担い手たり得るのだろうか。
(田島泰彦・上智大学教授)