菅・枝野新体制で臨む参院選 小沢氏が企む9月のシナリオ
2010年6月29日5:53PM
「九月に行なわれる民主党の代表選で、小沢さんは逆襲してくるかもしれないな」
波乱に富んだ第一七四通常国会がようやく閉会したその翌日、民主党のある中堅議員が筆者にこう漏らした。
二日の鳩山由紀夫前首相の突然の辞任によって、菅直人氏が新代表に選任され、総理大臣として組閣した。小沢氏に代わって党務を仕切る幹事長には枝野幸男氏、首相の補佐役である官房長官には仙谷由人氏が任命された。いずれも「反小沢の急先鋒」として知られている。
仙谷氏は二〇〇七年一一月の大連立騒動の時、両院議員総会で小沢氏に直接辞任を迫ったことがある。また枝野氏は一九九三年に日本新党から立候補して初当選したものの、小沢氏に近づく細川護煕氏を批判して同党を離党。新党さきがけから民主党に参加して、小沢氏ら自由党が民主党に合流後も政治的に小沢氏と対峙してきた。
「仙谷さんの官房長官就任はまだいい。問題は枝野だ。ヤツが党を牛耳り、次期参院選挙を仕切るなんて許せない」
こう述べるのは一新会に所属するある議員だが、彼らの枝野氏に対するアレルギーは極めて強いようだ。それは枝野氏が両院議員総会で幹事長に指名された時に、一新会所属の議員たちからの拍手が皆無だったという事実からもうかがえる。
幹事長辞任以来、小沢氏自身は表舞台から姿を隠している。枝野氏から求められた新旧幹事長の引き継ぎもわずか三分ですませ、後は「悠々自適の生活を送っている」という情報がある。
「小沢さんは釣りが好きだ。きっと別荘のある勝浦あたりで、船を出して楽しんでいるのではないかと思う」
そう話すのは小沢氏に近い民主党関係者だ。実際、小沢氏は一七日には都内のホテルで資金集めのパーティーを開いたが、この時も
「私も一兵卒になった。(菅首相から)『静かにしておれ』と言われているので、静かにしている。参院選では私流にひなびた田舎の山奥や海岸をまわり、支持をいただきたい」
と、自身が表舞台に出ないことを宣言している。だが小沢氏は政治的影響力をなくしたわけではない。
たとえば一二日には小沢氏は和歌山県に入り、連合和歌山の村上正次会長と面談。民主党への選挙支援を要請している。和歌山は小沢氏の元側近の二階俊博元運輸相の地元で、次期参院選で改選を迎える現職は自民党所属の鶴保庸介氏。鶴保氏は小沢氏の元秘書だが、たとえ、かつては自分に献身的に仕えてくれた相手であっても、今が敵ならばそれは敵。これは小沢流の政治哲学といえる。
外に対して排他的な組織は、往往にして内部の結束力が固い。小沢氏を取り巻く一新会はその典型例といえるだろう。
「われわれは次期参院選まではおとなしくしているつもりだ。野党があんな体たらくでは、民主党が勝つことはまず間違いない。問題はその後に開かれる臨時国会だ」
一新会に所属するある議員が筆者にその「方策」をそっと耳打ちしてくれた。
「たとえば一新会に所属する議員が、所属する委員会の理事を一斉に辞任する。そうなれば委員会はたちゆかなくなり、立法府は機能しなくなる。一種の国会ジャックだ」
国会を人質にとられたなら、菅政権は身動きできなくなる。こうして八月に「政変」を起こして政権を弱体化させ、そのまま九月の代表選になだれ込むという算段なのだ。
「次期参院選が終われば、少なくとも今後二年間は国政の選挙はない。その間におそらく、大規模な政界再編が起きるだろう。その中心になるのは間違いなく小沢一郎だ。九月の民主党代表選は、その前哨戦になるわけだ」(同議員)
となれば、いよいよ「小沢一郎首相」の誕生か。秋の政局はますます混迷を深めていく。
(天城慶・政治ジャーナリスト)