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録音・撮影が認められない”東京地検会見”は記者会見とはいえない
2010年7月26日8:59PM
5月11日から新規登録申請の受付はなし
昨年九月の政権交代以来、フリーランス記者たちにも徐々に門戸が開かれ始めた各省庁の記者会見。今年三月二六日には鳩山由紀夫首相(当時)が官邸での記者会見を一部オープン化。この決断により、財務省など、これまでフリー記者らに質問権を認めてこなかった多くの省庁でも参加・質問が認められるようになった。
特筆すべきトピックは、検察の記者会見の一部オープン化だろう。四月二二日、最高検察庁は全国の地検と高検に対し、「フリーランスの記者も参加する会見を開くよう」通知したのだ。
筆者は政権交代以来、東京地検に何度も「会見に参加したい」旨を訴えてきた。「会見のオープン化」を求める要望書を検察広報官に手渡そうとして地検入口から電話をかけたこともある。その際、地検の広報担当者は次のように答えた。「お会いすることはできません。そもそも、その要望書を受け取る必要があるんでしょうか」
筆者は、次席検事宛に書いた要望書を郵送することにした。しかし、その後二カ月を経ても検察側から返事が来ることはなかった。
これまで司法記者クラブに所属しない記者たちにとって、検察はまさにブラックボックスだった。検察の記者会見で何が話されたのかはもちろん、会見自体がいつ開かれるのかも一切知らされてこなかった。その理由は検察側が、「情報はすべて司法記者クラブに対してのみ提供しています」との姿勢を崩さなかったからだ。
その検察が、ついに記者会見をオープンにするという。筆者はこの動きを歓迎しつつ、事前登録の準備にとりかかった。しかし、そこには大きな壁があった。地検側が求める「事前登録」の条件が、あまりにも厳しすぎたのだ。
「直近3か月において執筆・掲載した刑事事件に関する署名記事等(少なくとも毎月当たり1記事、計3記事以上)の写し」「記者としての十分な活動実績・実態を有していることについて、各会員社において発行した証明書」……。
筆者は「推定無罪」の原則を無視して、あえて言いたい。これは「登録希望者をふるい落とすための文言」ではないのか。
私よりも真面目な『週刊金曜日』の記者は「雑誌協会に加盟していない」というだけの理由で記者会見への事前登録を断られた。
また、事前登録申請は五月一一日で締め切られ、その後、追加での登録申請は一切受け付けられていない。今後の受付予定も「未定」だという。これではとてもオープンな記者会見とはいえない。
会見の内容に踏み込まない大手メディア
筆者はさいわい、参加が認められたため、第一回目となる六月一〇日の記者会見にも参加できた。
しかし、東京地検の入り口に到着した筆者は目を疑った。地検の入り口から会見場までは、一・五メートルおきにおかれたポールとロープで「専用コース」が作られていたのだ。そしてポールのそばには四〇人近い職員が配置され、記者たちの動向を”監視”していた。まるでフリー記者たちが「危険人物」であるかのような扱いだ。
この異常な雰囲気は、筆者が会見場に到着しても続いた。なんと会場正面に貼られた大きな注意書きには、次のような信じられない文言が書かれていたのだ。
「撮影・録音はできません」
本来、記者会見とは情報を「正確に伝える」ために開くものである。記者として、正確な報道を期するために会見を録音するのは当然だ。それなのに録音禁止。おまけに撮影も禁止だ。法廷画家のように絵を描けということなのか。
この日の会見には、大鶴基成(おおつるもとなり)次席検事、片岡弘(かたおかひろむ)総務部長、稲川龍也(いなかわたつや)特別公判部長の三人が出席した。質問については制限がなかったため、私は「会見の運用方法」について質問をした。
畠山「この会見は本当に正式なものなのか。私は正確な報道をしたいと思っているが、録音できないと記事を書く際に確認もできない。これは『いい加減に書いてもいい』ということなのか。せめて地検側が会見を録音して、その要旨を公開する予定はないのか」
片岡総務部長「会見の要旨を公開することは考えておりません。数字などについては後で確認いただければお答えできるようにしていきたいと思っております。言ってはいけない固有名詞を言ってしまったりということを恐れておりまして、今のところ慎重になっているとご理解いただければ」
新聞やテレビは、地検の記者会見がオープンになったことは報じた。しかし、会見で出た質問内容まで踏み込んで報じた社はほとんどなかった。会見の要旨も発表されないため、その内容について外部から検証することも不可能だ。改めてもう一度問いたい。これは本当に「記者会見」と呼べるのか。
「不可視化の記者会見」で可視化を問う
基本的に「撮影・録音」が禁止されている地検の会見だが、例外が二回だけあった。それは検事正と特捜部長の就任会見である。一例として、筆者も参加した六月一八日の鈴木和宏検事正・就任記者会見の模様を再録しよう。
この日は、初めて撮影・録音が許可された記者会見だった。そのため、私は会見のすべてを録画するためにビデオカメラを持ちこんだ。しかし、撮影・録音が可能だったのは冒頭の三分間のみ。その後の質疑応答は撮影も録音も許可されなかった。
冒頭、鈴木検事正の挨拶(文書読み上げ)が終わると、会見の司会進行を担当する松並孝二総務部副部長はカメラマンたちに向かってこう呼びかけた。「それでは冒頭の挨拶をこれで終わらせていただきますので、申し訳ございませんが、カメラ担当の方々、撤収をしていただけないでしょうか」
この時点で会場で撮影をしていたスチールカメラマン七人、テレビカメラ六台は会見場を後にすることになった。ICレコーダーの録音もここでストップ。検察の記者会見は、わずか三分で再び「不可視化」されてしまったのだ。
私は「不可視化された記者会見」で、あえて取り調べの可視化について質問した。
畠山「取調べの可視化にむけて、地検の準備はどこまで進んでいるのか。それとも『可視化はできない』と説得するための準備が進んでいるのか」
鈴木検事正「可視化の録音・録画については、既に裁判員裁判対象事件に関して一部行なわれていると承知しています。検察としては、供述の正確性を期すため必要な限り録音しているという例も聞いています。一部可視化がやられているという言い方をしてもいいかなと思いますが、全面可視化はどうなのかと。法務省で勉強会なども開かれている。現場の立場としてはいろんな勉強会をしているという行政の中身を見守っている。可視化について、やらないように準備するとか、やるように準備するというのはコメントできません」
しかし、このやりとりも私が報じなければどこにも記録が残らない。逆を言えば、何度同じ質問をしても検察としては文句を言えないということだ。
私はしつこく聞き続けたい。「撮影・録音が認められない理由は」
(畠山理仁・フリーランスライター)