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新「ゆうパック」大遅配で、検証なし「正常化宣言」に“怒”の声
2010年8月6日2:20PM
郵便事業会社(鍋倉真一社長)は一五日、新「ゆうパック」の遅配が収束したという「正常化宣言」を出した。同時に遅配の原因を次のように述べた。「現在 検証を行なっているところですが、本社を始め全体として準備が不充分な面があった」。しかし、会社はいまだに検証結果を明らかにしてはいない。
しかし、これを額面通り受け取る郵政関係者は少ない。都内の統括支店の社員は「(遅配収束は)単にゆうパックが少なくなったにすぎない。お中元のピークがすぎたことと相次ぐ遅配で客離れが起きているからだ。年末繁忙になると同じことが起きかねない」と不安を募らせる。
「ペリカン便」を「ゆうパック」に吸収・統合した“ゆうパック維新” は華々しくスタートするはずであった。ところが三五万個におよぶ膨大な数の遅配を生み出し、苦情が日本列島を駆け巡った。
労働現場はパニック状態を引き起こした。全国の統括支店・ターミナルではトラックが構内に入れず、道路をふさぐ。荷物を降ろそうにも処理施設は狭く、人員も足りない。見る見るうちに荷物は山積みとなり、どこから手をつけていいのか、茫然自失の状態だったという。
管理者は「早くやれ」と尻をたたくだけ。集配支店には通常の三倍もの数日遅れの荷物が到着する。 だが、保冷容器、端末機、車両がなく、配達の しようがない。滞留が続く。現場労働者は休日返上、長時間労働が当たり前、休憩・休息はおろか食事をとるヒマもなく区分・配達作業に追い立てられた。
「ペリカン便」の吸収によって一日あたりの荷物量が一・七倍に増加すると郵便事業会社は想定していた。「ゆうパック」と「ペリカン便」を併せた 統括支店は一二三拠点だったはずが、統括支店はわずか一拠点多いだけの七〇拠点(五三カ所が一挙に削減された)。労働者の数もわずかに増やしたにすぎず、 むしろ熟練労働者は減らされていた。
またJPエクスプレス(ペリカン便)から移ってきた契約社員は最低賃金すれすれの時給七五〇円。委託者は委託料を半減され、朝早くから夜遅くまで酷使されている。辞めていかざるをえないのだ。
彼らは「やっている価値がない」「収入は激減した」と憤っている。しかもコスト削減のために「ゆうパック」と「ペリカン便」の物流システムを並 存させ、おざなりな研修は、現場の混乱に拍車をかけた。こうした会社のコスト削減・効率最優先が、かつてない大遅配をもたらした最大の要因だ。
そもそも、お中元商戦の最繁忙期に統合すれば、大混乱が生じることは誰の目にも明らかだ。にもかかわらず、日本郵政・事業会社はこれを強行。 会社は「放っておけば毎月六〇億円の赤字」を挽回するために、お中元商品の受注で増収をはかれるとの思惑から、無謀なことを承知で統合を急いだと言われて いる。宅配部門を「早期に単年度黒字化」するどころか、社会的信用を失墜し、皮肉にも赤字を膨らましたといえよう。
鍋倉社長は遅配したのは労働者の「不慣れ」と責任を転嫁し、連日の炎天下、利用者へのお詫びチラシの全戸配布を行なわせ、顧客を取り戻せとばかりに「ゆうパックをとってこい」との指示を出している。
JP労組本部は今回の事態の調査・集約すら行なっていない。北海道内の集配支店の社員は「会社も会社なら、組合も組合だ。九〇〇億円の損失を生 んだJPエクスプレス失敗の責任に目をつぶり、そして今回の事態だ。俺たちに責任を押しつけるなんて許せない。会社の言いなりだけの組合も問題だ」と双方 に手厳しい。このように現場労働者が怒るのは当然ではなかろうか。
(三浦芳則・「郵政労働者のいのちと健康を守る人権ネット」代表)