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初のファッション業界ユニオン結成――プラダを訴えたボヴリース里奈さんインタビュー
2010年11月16日4:28PM
「私、ユニオンって誰でも入れるって知らなかったんです。特別な業界のものだと思っていました。ファッション業界で働く人たちはそういう感覚だと思います」
プラダジャパンの社長および人事部長によるセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントの実態をミラノ本社に訴えたことで懲戒解雇され、その撤回を求め、今年四月にプラダジャパン相手に訴訟を起こした同社元部長のボヴリース里奈さん(三六歳)は言う。そのボヴリースさんを代表とするファッション業界ユニオンが一〇月二九日に結成された。
ボヴリースさんはシャネルやプラダなどの海外店で一〇年以上のキャリアを積み、二〇〇九年四月にプラダジャパンの販売部門部長として入社。そこで、ダヴィデ・セジア社長と高橋裕幸人事部長による社員への強制販売や、容姿・年齢を理由にしたハラスメントに気付き、七月末くらいから意見を述べだした。八月には、彼女の休暇中に各店舗社員にバッグの販売を強制したことがわかる。それを指摘すると、まもなく彼女への攻撃も始まり、九月には高橋氏から「髪型を変えろ、やせろ、君の醜さが恥ずかしいからミラノからの訪問者には会わせない」などと言われたという。その後、「そんなことは言ってない。あなたの想像」などと言われ、「会社を混乱させた」などの理由で降格、続いて懲戒解雇を通知される。
昨年末、東京地裁に労働審判を申し立て、そこで決着をつけるつもりだった。だが裁判官は「そんなにいやだったら転職すれば」などと言い、証拠をろくに見ずに訴えを却下した。それが今年三月一二日。この日、『ジャパンタイムズ』でボヴリースさんの記事が大きく報道される。このことで彼女の「味方」だったはずのミラノ本社の態度が変わった。
「ミラノ本社社長は、私の訴えを聞いて強制販売の証拠を送ってくれといい、労働審判の結果が出たところでジャパンの社長と人事部長を解雇する方向で、代替人材のヘッドハンティングを始めていたんです。でも、『ジャパンタイムズ』の記事が出て、本社はパニックになったんですね。高級ブランドはイメージを大事にするので、もめ事があっても和解に持ち込みます。和解の条件で訴訟や報道ができないので表には出ないんです。今回は、フランス、ドイツ、オーストラリア、シンガポール、香港など世界各地で報道されたためにイメージを傷つけたということで報復処置になったのでしょう」とボブリースさんは話す。
労働審判の結果に納得できないボヴリースさんは訴訟に持ち込むが、そのために、プラダ側から名誉毀損で反訴を起こされる。思いもかけない展開だったが、今度は違う方面で味方を得た。ワーキング・ウイメンズ・ネットワークや、働く女性の全国センター(ACW2)といった女性たちだ。「当時は鏡も見ることができず、電話の音にも脅えていた私が今、笑えているのは、問題を通してたくさんの支えてくれる人に会えたからです」とつながることの力を実感する。
今回、共にユニオン規約を話し合ったACW2の伊藤みどり代表は、「規約三条の目的条項には彼女の思いがつまっている。労働組合というと企業と闘うイメージが強いが、それだけでなく、労働条件がよくならないとサービスも向上しない、ファッションを愛する人のための組合にするということ。そして男性中心的な労働組合のあり方を見直し、女性のライフスタイルにあわない労働運動はやめて誰でも参加しやすい形態にするということが盛り込まれている」と話す。
ユニオン本部事務所はACW2(電話番号 03・5304・7383)に置く。現在の組合員はボヴリースさんを含め七名だが「ゆくゆくは、世界各地で働く人たちともユニオンでつながっていきたい。業界ユニオンというのは海外では聞いたことがないので日本から発信していきます。ユニオンに入るのが常識になればファッション業界も変わると思います」と視野は広い。
次回の裁判は、一二月一七日の一〇時から東京地裁六一九号法廷で開かれる。
(宮本有紀・編集部)