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居酒屋ワタミが事故を隠蔽工作――ノロウイルス食中毒事故で7日間の営業停止処分

2010年11月16日2:00AM

 居酒屋から墓場まで――外食産業から介護、医療、不動産、農業と事業を拡大している東証一部上場企業ワタミグループ。渡邉美樹会長(CEO)もメディアによく登場し、広告塔として活躍しているので知名度は高い。そのグループの主力である外食事業を展開するワタミフードサービス(桑原豊社長)の居酒屋「語らい処 坐・和民」三軒茶屋駅前店(以下、当該店舗)が、二〇名の発症者を出すノロウイルス食中毒事故を起こして九月三〇日から七日間の営業停止処分を受けていたにもかかわらず、処分期間中を「改装工事」とする隠蔽工作を謀っていたことが、このほど明らかになった。グループ全体では、今回で五度目の食中毒事故、発症者は累計一〇〇名を超えた。

休業の名目は「改装工事」

「お店がつぶれちゃうから、家族、友人には(事故の事実を)言わないでほしい」

 匿名を条件に取材に応じた当該店舗の従業員によれば、営業停止処分決定後、本社から派遣されている社員が従業員に対してこう口止めをした。九月三〇日から一〇月六日までの休業期間中は「改装工事」を表向きの名目とすることにし、本社のホームページ、グルメ情報サイトなどでは、当該店舗は「改装工事のためCLOSE」としていた。当該店舗前には「設備改修および店内清掃」として近隣の系列店を紹介する掲示板を立て、実際にワックス掛けや店内装飾品の付け替えなどの軽微な改装を行なっていたという。改装工事が休業の理由であれば従業員への賃金補償がされるはずだが、それはなかったという。

 東京都では一般的に三〇名以上の発症者を出した食中毒事故については東京都記者クラブに対して発表を行なっているが、今回は発症者が合計二〇名であったため、発表はされなかった。営業停止処分期間中は世田谷区が区ホームページ内の食品衛生法違反者公表のページに違反事実を掲載したが、世田谷区広報課によると同期間中このページには九六件しかアクセスがなかった。また、今回の食中毒事故を報じたメディアも一社もなかった。つまり事故については、ほぼ関係者にしか知られていないのである。

 世田谷保健所は事故の詳細についての問い合わせには一切答えないとしているため、情報開示を請求。それにより、一〇月二〇日に明らかになった資料によれば、事故発生日は九月一〇日(金)。この日に当該店舗が提供するコース料理「お馴染みコース」を飲食した二三名の団体から一四名が、九月一一日から一三日にかけて食中毒症状を呈していることがわかった。連絡を受けた世田谷保健所が発症者を検査した結果、一三名からノロウイルスG2を検出した。後日、同じ日に同じコース料理を利用した別の一一名の団体から六名が食中毒症状を発症していることが判明し、保健所の検査で五名からノロウイルスG2を検出した。

 保健所は同月一三日に当該店舗に立ち入り調査を行なったが、従業員、食品、食器などからノロウイルスは検出されなかった。世田谷保健所および健康安全研究センターの調査によって、発症者を出したそれぞれの団体から同じ遺伝子配列のノロウイルスG2が検出された。世田谷保健所はこの事故を同店が提供した食品を介した集団食中毒であると断定し、九月三〇日から一〇月六日までの営業停止処分を科した。

グループ内5回目の事故 

 今回の事故でワタミグループが運営する施設での事故は累計五回となる。そのすべての原因がノロウイルスだ。ノロウイルスは、二〇〇二年にフランス・パリの国際ウイルス学会で命名されたため、日本でも〇三年から食中毒原因物質として登録された。〇五年に広島県内の老人ホームでノロウイルスが間接原因となり七名が死亡した事故が発生している。感染力の強さから、翌〇六年には牡蠣業者などが風評被害を訴えるほど有名になった。現在は有効なワクチンが開発されてないので、治療法としては安静と水分補給を続けるほかない。ノロウイルスに詳しい東京都福祉保健局健康安全部食品監視課食中毒調査係長の服部大氏は以下のように対策を呼びかける。

「ノロウイルスは感染力が非常に強いので、感染者の嘔吐物や排泄物をきちんと処理することが重要。二枚貝類は十分に加熱し、特別な場所に保管すること。用便後はよく手を洗って食材を汚染しないようにするなど、非常に慎重な取り扱いが必要になってくる。また、従業員の健康をチェックする場合にも、はねられたらアルバイト代が入らないということがあり、(体調が悪くても)自分は健康であると言ってしまう場合もある。もちろん体調不良がない人がノロウイルスを持っている場合もある。体調は良いがウイルスを持っている健康保菌者による事故が最近増えているので注意すること。いずれにせよ、体調の管理と、手洗いの徹底をし、特に調理従事者は汚染されないように注意すること」

取材を拒否し続ける本社

 ワタミ本社は本誌の取材を拒否し続け、今回の事故に関する説明を完全に放棄している。同社広報部は一〇月一三日に、「一〇月一日に『世田谷区からの行政処分について』と題した文書を発表しており、それ以上は一切答えられない」と主張した。同文書はワタミフードサービスの情報欄には掲載されておらず、検索しなければ閲覧することができない。同文書では発症者への「お詫び」が述べられているが、事故の詳細については一切触れられていない。しかし、同社広報は「お答えできない理由もお答えできない」と言う。改めて本社、桑原豊社長、渡邉会長に対して取材を申し込んだが、後日本社から取材には一切答えられない旨と、このことは社長、会長両名が認識していることを伝える文書が送られてきた。

 ノロウイルス事故を連発しているワタミグループは、外食産業における非正規化・合理化の最先端を突っ走ってきた企業だ。現在ワタミフードサービスの全従業員約一万七〇〇〇名のうち、正社員はおよそ二五〇〇名。事故を起こした店舗でも全従業員四二名のうち、正社員は数名ほどだったという。一九九六年に提出した有価証券報告書によれば、当時から全従業員の八割以上はアルバイト・パートで構成されていた。非正規依存率は、高まる一方のようだ。

 そして従業員に低賃金かつ不安定な労働を要求しながら、一方で労使関係を利用して渡邉会長を崇拝する思想注入を行なっていることも、複数の従業員への取材で明らかになってきた。それによれば、従業員は全員、毎月一回本社から送られてくる渡邉会長の自慢話やワタミ社株の購入などを勧める内容の「メッセージビデオ」なる三〇分程度の映像を観させられ、後に感想を提出しなければならないとのこと。正社員は渡邉氏の思想が記述された「理念集」を所持させられるなどしているという。ある従業員は「宗教的だ」と揶揄するほどだ。

 創業者・渡邉氏はテレビや業界紙などで、あたかも飲食店経営のプロのようにもてはやされている。しかしその社史を追ってみると、地道に飲食業に従事したというよりも、企業買収と減量経営によって成り上がったことがわかる。普段、メディアで「何があってもウソはつかない。それは利益よりも大切だ」などと気前のいい発言をしているが、それならばなぜ取材に一切応じないのだろうか。

(村上力・ジャーナリスト)

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